最近のカイゼントークで、これからの日本の製造業は付加価値を高めて価格を引き上げることが必要だとお話しして参りましたが、もちろんコストを下げる活動は常に重要です。どちらか一方ではなく両方を追求する、いわば「両利きのカイゼン」が求められるのです。そして今回のテーマは、コスト削減に関する提案です。
とはいえ、「コストダウンはこれまでもずっとやってきたし、もう限界だ」と感じている人も多いのではないでしょうか。しかし、それは固定観念に過ぎず、視点を変えればまだまだコストを下げる余地があります。そのヒントとして最近読んだ日経新聞の「NEO-COMPANY」というコラムをご紹介いたします。
**「カローラ伝説捨てる 格差時代の大衆車発明」**という記事によると、中国製の低価格車が台頭する中、カローラは価格では「大衆車」ではなくなっており、トヨタは従来の世界同一の品質基準を大幅に見直すなど、新たなコストダウンに着手しているとあります。過去最高益を上げながらも、トヨタは「古いトヨタ」の解体に踏み切り、「変化しなければ衰退する」と豊田会長自らが断言しています。具体的には、3月発売の低価格EVにはケイレツ外のニデック製モーターを採用し、更にバッテリーをリース方式にして車両価格を下げる新しい販売方法の開発にも踏み出すなど、大胆な改革を始めているとの内容です。
一方で、中国のメーカーには、世界基準から外れた低い品質や性能を意図的に採用し、原価を抑えて競争力を高めているところもあるとあります。日本の「品質第一」という常識からすると想像しにくい手法ですが、こうした必要最低限を追求した徹底したコストダウンが中国メーカーの大きな武器になっているのが現実です。
もちろん、日本の製造業がその中国のやり方をそのまま取り入れるべきだとは思いません。しかし、私が実際に現場を見渡してみると、品質基準が過度に厳しくなり、十分に良品と判断できるものまで検査で弾かれているといったケースが多く見受けられます。クレームを恐れるあまり、必要以上に品質を追求し、それが結果としてコスト高につながっているのではないでしょうか。あるいはお客様が必要とする品質レベルをはるかに超えている製品もあります。
多くの日本の製造業には「不良ゼロ」を目指す意識が強く、わずかな欠陥も許されない文化が根付いています。高度経済成長期の高品質が競争力の源泉だった時代の成功体験が今も続いていると言えます。しかし、グローバル競争では「品質とコストのバランス」が重要になっており、日本の製造業はこのバランスを見直す必要がありそうです。
では、どのようにして適正な品質基準を設定し、コストダウンを実現すればよいのでしょうか。そのためには、過剰品質を見直すことです。「本当にその品質が必要なのか?」と疑い、「必要最低限の品質レベルを確定する」ことを実行し、その上で「正しいターゲットを決める」ことが必要です。そして、お客さまはどのレベルの品質を本当に望んでおられるのかについて、お客様の意見を参考にするのはいかがでしょうか。漫然と不良ゼロのみを目指す品質管理を続けるのではなく、必要な品質と不要な品質を明確に区別し、工程の最適化を進める必要があるということです。
これからの日本の製造業に求められるのは、「とにかく高品質」を追求するのではなく、「本当にお客様のニーズに沿った品質」を定義し、その品質を満たすための最適な工程設計を行うことです。そして、クレームを恐れるあまり、必要以上にコストの高いものづくりになっていないか、今一度見直すことです。日本の製造業が生き残るためには、「付加価値の向上」と「コスト削減」の両面でのカイゼンが不可欠なのです。
今回は品質をお客様が望む必要最低限に抑える切り口でコストダウンをお話しいたしましたが、すべての切り口でこのようなこれまでの常識を超えたコストダウンを始めましょう!