脱力・カイゼントーク 第82回

危機管理

私は、心身統一合氣道という武道を学んでいます。先日、その関係で毎年開催される「キ・フォーラム」という会合に参加しました。さまざまな分野の専門家が講演を行いますが、今回は元警視総監であり、内閣危機管理監、さらには東京2020オリンピックのCSO(チーフセキュリティオフィサー)を務められた米村敏明さんが、「危機管理」をテーマに講演してくださいました。

元警視総監と聞いて堅い内容を想像していましたが、米村さん自身も最近合氣道を学び始めた稽古仲間ということで共通の話題もあり、親しみやすい雰囲気の中で具体的な事例を交えながら楽しくお話しくださいました。例えば、何事もなく無事終了したと報道される大イベントでも、その裏には未然に防がれた数多くのテロ級の大事件があるという話は特に印象的でした。改めて、危機管理の重要性を実感しました。

この講演で、「危機管理」は、モノづくりのカイゼンにも深く関係していることに気付きました。そこで今回は、米村先生のお話をもとに、危機管理の視点からカイゼンを考えてみたいと思います。

【危機管理とは?米村先生の講演要旨】

危機管理とは、「想像と準備」です。ただ想像するだけでは不十分で、具体的な準備につなげなければ意味がありません。実際に危機が発生した際、限られた時間の中で最適な選択をするのは非常に難しいものです。だからこそ、普段の習慣の延長線上に危機管理を置くことが重要になります。

危機管理がうまくいかない最大の理由は、「当たり前のことを当たり前にできていなかった」ことにあります。人は問題を直視したがらず、リスクを過小評価する傾向があります。「大したことはない」と楽観視し、必要な対策を怠ることが多いのです。

さらに、危機管理を阻害する要因として、「分業が進みすぎること」が挙げられます。組織が細分化され過ぎると、部署間の孤立が生まれ、情報共有が不足しやすくなります。これを防ぐためには、関係部署が一堂に会し、現場の問題を共有しながら解決策を話し合う仕組みが必要です。朝礼や定期ミーティングを活用し、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを強化することで、現場の一体感が生まれ、結果的に危機管理の精度が向上します。

また、危機管理は「性善説」でも「性悪説」でもなく、「人間とはどういう生き物か?」という視点で考えることが重要です。人は誰しもミスをするものです。その前提に立ち、ミスを防ぐ仕組みを作ることが重要です。

そして、常に慌てないことです。アニメ一休さんでおなじみの、「慌てない、慌てない。一休み、一休み」という心構えが大切になります。

【この講演を聞いた上で私が思ったこと】

モノづくりの現場では、設備トラブル、不良品の発生、納期遅延など、さまざまな問題が発生します。その際、「想像と準備」ができているかどうかが、現場の安定稼働を左右します。

まず、リスクを想像することが重要です。設備の故障や品質トラブルの可能性を考え、「どんな問題が起こるか?」を話し合います。その上で、「なぜ?」を繰り返し問いかけ、現場の弱点を洗い出すことが必要です。次に、具体的な準備を進めます。定期メンテナンスを徹底し、予防保全を強化するだけでなく、マニュアルを整備し、緊急時の対応フローを明確にすることが求められます。

現場では、「このくらいの不良なら問題ないだろう」「この工程の遅れは何とかなる」などと楽観視しがちですが、小さな見落としが積み重なると、大きなトラブルにつながります。

また、部門間の情報共有化も大切です。製造部門、品質管理部門、生産管理部門、営業部門など、それぞれの役割が、部門間で異なるため、情報共有が不足すると、品質問題が発生しても「どこで問題が起きたのか」「なぜ発生したのか」が分からず、責任の押し付け合いになりがちです。これでは迅速な対応はできません。そこで、トラブル発生時の対応プロセスを共通認識として持つことが必要になります。リーダーが率先して情報を伝え合う文化を作ることで、現場の危機管理能力を向上させることができます。

さらに、どんなに注意してもヒューマンエラーは避けられません。そのため、「ポカヨケ」、「使うモノしかない整理・整頓」、「工程内検査」など、ミスが起こることを前提とした仕組みづくりが重要です。ミスを責めるのではなく、再発を防ぐ仕組みを整えることが、より強い現場をつくるカギとなります。そのためには、こちらでも「慌てない、慌てない」と冷静に対処することが肝心です。

私はこのように解釈しましたが、皆さんはどのようにお考えでしょうか。

危機管理は作業カイゼンから経営カイゼンまですべての分野に適用すべきテーマです。上手に活用してどんな変化にも耐えられる準備をいたしましょう!