脱力・カイゼントーク 第81回

今の若者 まとめ

私はこの文章を書いているとき、ふと50年前の社会人になりたての頃のことを思い出しました。当時、私は工場に勤務していて、夜遅くに一人で事務所に残っていたことがありました。そのとき、部課長たちが会議をしていて、上司から「お茶を入れてほしい」と頼まれました。会議室に入ると、偉い部長や課長は何を議論しているのか気になり、私はこっそり聴き耳を立て、黒板をチラ見しました。工場のトップである工場長からの指示が曖昧だったようで、直属の部下である部課長たちは「何をすればいいのか」分からず、いろいろな可能性を議論していたようでした。まだ社会人経験が少なかった私は、「分からないなら直接聞けばいいのに…」と不思議に思ったのをよく覚えています。同時に、当時私にとって雲の上の存在であった部課長がこのような議論をしていたのはちょっと驚きでした。

仕事の指示を出す際にはただ命令するだけでなく、その目的や期待する成果、そして判断の基準をしっかり伝えることが大切です。上司と部下の関係でも、顧客と企業の関係でも同じで、相手が「何のために」「どう行動すればいいか」を具体的にイメージできるようにする必要があります。

前回までの脱力・カイゼントーク79「今の若者」と80「今の若者2」では、Z世代の若者とのコミュニケーションの在り方について考察しました。単に指示を出すのではなく、目的や条件を明確に伝えて、相手が理解し納得できる形に整えることの重要性を強調いたしました。

たとえばある企業の事例では、若手社員のBさんに重要な顧客対応のため、残業や休日出勤を求めましたが、具体的な条件を提示することをせず、判断もBさんに委ねられることが困難な状況でした。その結果、Bさんは最終的には退職を選んでしまいました。一方、D社では、上司がGさんにプロジェクトの目的や期待される役割を丁寧に説明し、彼女の希望も反映した条件を提示しました。その結果、Gさんは自分の役割を理解し、プロジェクトに積極的に参加して成功を収めたのです。このように、相手が「納得できる形」で情報を受け取ることが、円滑なコミュニケーションを生み出します。

もちろん、今のZ世代と呼ばれる若い人たちはこれまでと全く違う環境で育っているので、年長者からすると分かりづらい部分があり、対応の仕方に戸惑いが生じることもあるでしょう。ですが、同世代同士ならば常にうまくいくのかといえば、必ずしもそうではありません。相手が若者であろうと年配者であろうと、納得のいくコミュニケーションを築くのはどの世代にとっても難しい課題です。時代や世代によって価値観は異なりますが、「自分の意見が尊重され、納得したうえで行動できる環境」を望む気持ちは、すべての人に共通しているからです。

私自身、これまでのコンサルタント経験の中で、多くの現場でこうしたコミュニケーション上の課題を目の当たりにしてきました。デジタル化が進み、働き方が変わる中で、対面での会話が減り、チャットやウェブ会議などの新しい手段が増えています。けれども、どんなに便利なツールを使ったとしても、相手が理解しやすい形で伝える努力を忘れてはいけないと痛感しています。

だからこそ、私たちは「今の若者」と世代を限定して語るのではなく、「どうすれば相手が理解し、行動してくれるのか」を常に考え、どの世代とも円滑なコミュニケーションを築いていくための方法を模索していくことが大切だと思います。

世代を超えて、お互いに理解し合う努力を続けることで、より良い職場環境や人間関係を築きましょう!