脱力・カイゼントーク 第79回

今の若者

「今の若者は……」という言葉は、いつの時代もよく聞かれる言葉のようです。現在はZ世代と呼ばれる若い人たちがそれに当たると思います。コミュニケーションをしっかり取れば問題は解決できると考える人もいますが、それだけではうまくいかないこともあります。

実際、ある企業(A社)では、新型コロナやインフルエンザの流行による急な欠勤が重なり、重要な顧客への製品供給が滞りそうになる事態が起きました。これを乗り切るために、社長は若手社員を含めた対応可能な人たちに、「会社にとってその顧客がいかに重要であるか」や「こうした困難な時に助け合うことの大切さ」を丁寧に説明し、残業や休日出勤での生産体制を実行するための協力を求めました。結果としてこの対応は成功し、無事に納品を完了することができました。社長は協力してくれた人たちに感謝の気持ちを伝え、そのことで皆も理解してくれて事なきを得たと思いました。

ところが、その後、協力してくれた若手社員のBさんが「会社を辞めたい」と言ってきました。社長は、若手社員が社長の依頼を理解し、納得した上で引き受けてくれたと思っていましたが、実際にはそうではなかったようです。私も、Bさんが社長の言葉に納得して協力してくれたのだと考えていたので、辞職という結果を知り、なぜそうなってしまったのか理由が分かりませんでした。

そこで、私の若い友人のCさんにこのことを話し、「Bさんはどんな考えだったのだろう?」と聞いてみました。Cさんは40代前半の人で、Z世代の若い人たちと日常的に接しマネジメントをする立場にもいる人だからです。Cさんは「あくまで自分の考えだけど…」と前置きした上で、Bさんの考えを推測してくれました。まず、社長の依頼に対して、「会社にとってそれほど重要なことならば、自分たちにも当然、それに見合ったプラスアルファの条件が提示されるべきだ(プライベートの時間の重要性)」と思ったのではないか。そして「あのときは断る余地がない雰囲気で、仕方なく引き受けた」という気持ちだったかもしれないというのです。具体的には、「この時期を乗り越えたら代休を自由なタイミングで取れる」とか「規定以上の割増賃金が支払われる」などの条件が示されたうえで、協力できるかどうかを判断できる形を望んでいたのではないか、とのことでした。

私はZ世代の若い人たちの傾向などを本やネットで勉強していて、知ったつもりでいましたが、いつも身近で接しているCさんからこうした分析を聞き、驚くと同時に、自分の理解がまだ不十分であったと実感しました。そうだとすると、この場合、あらかじめ条件を明示して選択肢を示すだけでも、Bさんの納得感は大きく変わったかもしれないと思います。給料が出るなら働きたいという考えの人と、休みを失いたくないという考えの人がいるという理解が必要であるということです。Z世代の中にもいろいろな人がいますが、こういうタイプの人が多いのも事実だと感じています。

もし、その結果、人手不足が解消できないならば、タイミーのようなシステムを活用して非常勤スタッフを募集したり、過去に働いていたパート社員を一時的に雇用したりするなどの対応も考える必要があります。緊急時ほど、無理に社員を使うのではなく、社外リソースを活用して社員に余裕を持たせるほうが、結果として離職リスクの低減につながる可能性があります。何よりも社員を守り、彼らが気持ちよく働ける環境を整えることこそが、長い目で見れば企業にとって大きなプラスになると考えています。

「今の若者は……」と嘆くのではなく、「どうしたら彼らを納得させられるか」を真正面から考え、具体的な待遇や働き方に関する条件提示を行う。そうしたアプローチが、世代を超えた協力体制を築くカギだと感じています。