通勤時間帯の満員電車に乗った時のことです。降りようとするほとんどの人が声を出さず、黙って前の人を押しのけるようにして降りようとするため、通路がなかなか開きません。そのため、降車に時間がかかるだけでなく、押す側も押される側も、どことなく居心地の悪い雰囲気が漂っていました。
そんな中、私が降りる駅に到着しました。車内は相変わらずの超満員で、しかも私は大きなカバンを持っていたため、「うまく降りられないのでは…」と不安になりました。ところが、実際には驚くほどスムーズに降りることができたのです。
その理由は、周囲に向けてはっきりと「すみません、降ります。よろしくお願いします」と声をかけたことにあります。この一言で出口付近の人たちが順番に移動して道を空けてくれました。おかげで大きなカバンを持った私でも、誰にもぶつからずに降りられました。
この経験を振り返ると、「降りる」という意思を周囲に正確に“発信”したことが成功のカギでした。無言で降りようとすると、意思が伝わらず単なる身勝手な行動に映り、周りもどう対応していいのか分からなかったかもしれません。しかし、「すみません、降ります」という言葉で状況を明確に伝え、丁寧にお願いしたことで、周囲も嫌な顔をせずに協力してくれたのです。
この経験は、モノづくりの現場にも通じるものがあります。現場では複数の工程を経て作業が進むため、情報が途切れたり不十分だったりすると、誤解やムダ、そして混乱が生じます。
例えば、品質や設備稼働のトラブル情報が行き届かないと、不良品の拡散や部品欠品が発生し、その結果、再作業や追加コストがかかることがあります。最悪の場合、不具合が流出して大きなトラブルに発展する可能性もあります。
実例として、機械加工組み立てを行うA社の事例をご紹介します。ある日、部品加工職場で設備不具合による品質不良が発生しました。この部品は翌日の製品組み立てに使用する予定でしたが、情報が後工程職場や生産管理担当に伝わらず、欠品に気づいたのは組み立て作業が始まってからでした。その結果、生産ラインが数時間停止し、大きなロスが発生しました。
原因を調べたところ、部品加工職場では品質不良の原因となった設備不具合の復旧に集中するあまり、後工程や生産管理部署への連絡ができていなかったことが分かりました。もし情報がきちんと伝わっていれば、防げた問題だったのです。
ではどのように対応すればよかったのでしょうか?
答はシンプルで、問題が発生した際には、その対応を進めると同時に、影響を受ける部門へ迅速に連絡して問題の拡大を止めればよかったのです。この場合は、後工程と生産管理部署への連絡が重要でした。
このことが契機になって、A社では、このような問題が発生した際の対応をルール化しました。まずは問題発生時に、後工程や生産管理などの緊急対応が必要な部署に即座に通知すること。そして、その問題の再発を防ぐための根本対策及び緊急対策を取れるような仕組みも作りました。品質や設備稼働の問題が発生した際、製造部門だけでなく、品質管理・生産管理・調達・技術など、関連する部門が現場に集まり、品質対策はもちろん、それによって起こり得る問題を、その場で迅速に検討・対応する仕組みを作りました。どちらかというと各部門がバラバラに対応することが多かったA社ですが、QRQC(Quick Response Quality Control)と名付けられたこの仕組みにより、相互のコミュニケーションが良くなり、全体最適を生み出すチームワークが生まれ、生産性と品質の向上に大きな貢献をしています。
適切な情報伝達と共有は、現場全体を一つのチームとして機能させ、問題を未然に防ぎスムーズな作業の流れを実現します。
情報を適切に伝達し共有することの大切さを改めて確認し、より良い現場づくりを目指しましょう!