脱力・カイゼントーク 第77回

褒めるということ パート2

先回、現場カイゼンにおいて「褒めること」の大切さについてお話しいたしましたが、デジタル化のカイゼンでもその重要性は変わりません。むしろ、重要性は増すと思います。

先週書いた文章を繰り返しますが、「褒めるためには、褒める側と褒められる側の両方が同じ目標に向かい、作業を共有し、観察し、なぜそうしたのか?なぜそう考えたのか?を知る必要があります」。これらは全てボトムアップのカイゼンをするための重要な要素であり、このような基盤がある現場は、デジタルのカイゼンにおいても優位性を保つことができます。今回は褒めるカイゼンをしていると、どのようにデジタル化のカイゼンで効果が出てくるかについてお話ししたいと思います。

過去にもデジタル化について何度かお話ししましたが、デジタル化は苦手という人は少なくありません。特に中高年の人の中には、興味がなく知識を持っていなかったり、恐怖感を持ったりして触ることさえ嫌という人もいます。また、新しい設備を導入した際にも必要最低限の機能の動作だけ覚えて、機械の能力を充分に発揮させられず、せっかくのハイテクの機械が以前のものと比べてさほど大きな効果がないといったようなこともあります。

デジタル化のカイゼンの代表例としては、デジタル機器を用いて様々なものをデータ化する見える化と情報の共有化、コスト計算やタイムカード処理などの自動化、人間がやっていた作業をロボットや設備を導入してのオートメーション化などが挙げられます。デジタル化はとても便利になる反面、弱点も多々あります。例えば、膨大なデータを見える化したとして、その情報はしっかり皆に共有できているでしょうか?新しい設備を導入してもごく一部の人しかその機械を使えないなどのことはないでしょうか?せっかくデジタル化したのに使いこなせていない現場を今まで何度か見てきたというのも事実です。

せっかくデジタル化しても「自分には関係ない」「私はその機械については知らない」などと担当者と担当者以外でかなりの温度差が生まれてしまうこともよくあります。では褒めれば良いのか?というと少し答えは違います。普段から褒めたり褒められたりとお互いを褒め合うカイゼンをしている会社は比較的デジタル化に難色を示すことが少ないことが多かったというのが事実です。

先ほども述べたように、褒めるという行為には情報共有と、過程・結果の観察がなければ褒めることはできません。そして、コミュニケーションが取れていないと褒めたり褒められたりというのは当然できないのです。私はデジタル化のスペシャリストというわけではありませんので、これはある種の偶然の産物のような発見だったのかもしれません。

コミュニケーション力の高いカイゼンを実行している企業では、デジタルが苦手な人向けのマニュアル作成の改善案が出てきたり、新しいソフトを作成する際に複雑なインターフェイスにせず、皆に使いやすいものにする改善案を出す人もいました。デジタルが苦手な人がいることも、情報共有がうまくできていないことも、普段のカイゼン活動の経験から課題として見つけている人がたくさんいたのです。

プログラミングなどの専門作業は得意な人や外部の専門家が一人で進める場面があり、全体の流れから切り離されがちです。その結果、情報共有やコミュニケーションが抜け落ち、必要な情報が伝わらず、現場で使えないデジタル化になってしまうことがあります。このような落とし穴を防ぐためにも、従来の現場カイゼン活動と同様に進めることが重要です。

カイゼンがうまく進む会社は、デジタル化についても苦手とせずに新たな「改善点」として全体最適のカイゼンを実現し、大きな成果を生み出しています。ただ褒めれば良いというわけではなく、目標を掲げ情報共有を増やし、しっかりと現場を観察してみてください。見もしないで褒めているようでは、現場の意欲が低下し、自発的なアイデアが生まれにくくなります。このような環境では、デジタル化もうまく進みません。デジタル化の時代だからこそ、「褒めること」が一層大切なのです。