先回は、「人はちょっとした一言でも、それが心に引っかかるとケンカに発展することがあり、カイゼン活動でも同じような現象が見られる」という話をしました。今回は逆に、「褒められることでカイゼンが大きく進歩する」という点についてお話しします。
これまでも「褒めることの重要性」について触れてきましたが、今回は改めてデジタル化との関連を交え、その理由を説明します。
褒められたことで、自分のやったことが認めてもらえた気がする、また頑張ろうと前向きに思えるなど、わかりやすい成果はもちろんのことですが、それだけではカイゼンが大きく進歩するとは言い切れません。褒めるということの重要なポイントとその本質を少しお話しさせていただきます。
カイゼンの目的はムダの排除や5Sの実行等を通じて生産性、品質、安全性の向上など「今よりも良くする」ということが挙げられます。そして重要なのは社員一人一人が自分の身の回りの仕事に改善点を見つけ協力し合い、ボトムアップで実行することが望ましいという点になります。つまり本質としてカイゼン活動は上から言われた義務や作業であっては限界があり、そのためには「褒める」ということが重要なアクションとなります。
誤解を恐れずにお伝えしますが、カイゼンをすることで数字の上で生産性が上がったとして、社員に直接に感じられるメリットがどれだけあるでしょうか?それよりも実際の作業が効率的になったことの方が、働いている方にはメリットに感じることがあると思います。つまり、カイゼンは必ずしも最初から全員が協力して参加するものではなく、義務で始まることが大半です。カイゼンを最初からボトムアップで全員にしてもらうのはほぼ不可能というのが私の実感です。
そこで必要になる「褒める」ということの役割を考えてみましょう。褒めるためには褒める側と褒められる側の両方が同じ目標に向かう必要があり、作業を共有し、観察し、なぜそうしたのか?なぜそう考えたのか?などを知る必要があります。これらは全てボトムアップのカイゼンをするための重要な要素と言えます。
経営者がカイゼンを指示する際には、「叱る」と「褒める」の2つのアプローチが考えられます。一般的に𠮟ることは簡単で、実行に特別な準備は要りません。問題が起きたときにそのことを強く指摘するというシンプルな対応だからです。しかし、叱られることで従業員のモチベーションやカイゼンへの参加意欲を上げることはできないのです。
一方、褒めるためには、しっかりした準備が必要です。まずカイゼンの目的を共有化する必要があります。例えば、材料費などの原価が高騰している中で、会社の利益を確保するために生産性を向上させてコストを下げるという目的があったとします。そこで、まずそのカイゼンが会社のすべての人たちに理解してもらえるようなビジョンが必要です。例えば、整理整頓、ムダ取りや多能工化などをして生産性を上げ、残業を減らす。それらをベースにして賃上げを視野に入れた活動をするといったことです。もちろん給与面の詳細は部課長レベルの人までの展開となりますが、このような内容であれば、達成した時に、経営者も従業員もすべての人が一緒に喜ぶことができ的確に褒めることができます。このビジョンの共有がないと、従業員には「やらされ感」が生まれ、やる気が出ません。
月々のゴールをクリアすれば、そのたびに褒めることができます。そのカイゼン過程で問題点を発見したらそれも褒めてあげることができ、さらにその問題点を解決したらまた褒めてあげることができます。このように事前にカイゼンのビジョンとゴールを設定し共有化することで、初めて意味のある「褒める」ということが可能になります。経営者・管理者は実際のカイゼンの進捗を現場で確認し、その上で具体的に褒めてあげることが必要です。
毎月の目標ゴールに近づく努力を皆で行い、結果を確認し、更にカイゼンの過程で、作業上の各種の問題点、例えば、姿勢が悪いので腰がつらいとか、暗くてモノが見づらいとか、段差があって危ないといった問題点が出てきた時に、参加者全員で工夫をして解決をするといった努力があると、「意見を言っていいんだ!」、「自分達で仕事の環境を快適にできるんだ!」という気持ちが生まれ、カイゼン実行に対する積極性、アイデアが生まれます。
このステップがないと、褒めるといってもただのお世辞に聞こえてしまったり、私たちが求めているボトムアップのカイゼンの「褒める」になりません。褒めることで成果を出すためには、そのための十分な準備が必要ということになります。
次回に続きます。