脱力・カイゼントーク 第75回

ちょっとした一言で

人は、ちょっとした一言でも心当たりがあると、それがきっかけでケンカに発展することがあります。一方で、同じ一言でも、自分に全く関係がないと感じれば、イラっともしなければ、気にすることもほとんどありません。この現象は、カイゼン活動の場でも、しばしば見られます。

例えば、「ここをカイゼンすれば確実に良くなる」と分かっていながら、できていないことがあります。やるべきだと理解しているにもかかわらず、大変だからと「見て見ぬふり」をしている課題です。このような部分をコンサルタントとして指摘すると、イラっとした表情を見せる人も少なくありません。それまで活発だった意見交換が止まり、無言の圧力を感じることもあります。

なぜそうなるのでしょうか。それは、私の指摘に思い当たることがあり、問題点に心当たりがありながらも、手をつけられなかったという背景があるからです。こうした「触れてほしくない部分」には、多くの場合、大きなカイゼンの可能性が秘められています。成果が上がることは確かであるが、一人や一部門では対応できず、多くの部門や専門家を巻き込む必要がある面倒な案件だからこそ、後回しにされてきたのです。

だからこそ、私はコンサルタントとして「触れてほしくない部分」に向き合います。例えば、精密機械加工のG社では、設備のレイアウトが工程順に一致しておらず、多くの問題が発生していました。繁忙期を迎えるに当たり、工場の皆さんもこのレイアウトの不具合を解決しないと生産遅れが生じる出る可能性があることに気付いていたと思います。しかし、直前の設備移動で問題が発生するリスクを怖れるあまり、その課題には触れない雰囲気がありました。私がこの課題を指摘したとき、皆さんが嫌な顔をしたり困った顔をしたりしたことをはっきり覚えています。それでも、該当する設備の移動は危険を伴うものでなく、むしろ大量の注文をこなせなくなるリスクを考えると、レイアウト変更を行うべきだと説明したところ、理解が深まり実行されました。結果は、注文が予想を超える量となり、もしレイアウト変更を実行しなかったら、大問題となったということでした。その上、その後の仕事もやり易くなったので、あの時に指摘して本当に良かったと感じました。

一方で、「エッ?なんですかその提案は?」という反応を受けることもあります。これは、皆さんが「全く考えていなかったこと」を私が提案したときの反応です。同じG社でのことですが、レイアウトカイゼン後に「次は工程表示をしましょう!」と提案した際、このような反応が返って来ました。工程名は皆が知っているので必要ないと思っていたようです。しかし、工程表示は今働いている人たちだけでなく、新人や応援者、部品や材料を供給する他部署の人たちが間違いなくいつも正確に仕事を続けるために必要です。このことを理解してもらい、結果として非常に分かり易い表示ができ、小さなミスが減少し品質レベルの向上にも繋がりました。加えて、工場としての見栄えも大幅にカイゼンされました。

2つの例をあげましたが、単に指摘するだけでは現場の皆さんの反発を招き、カイゼンがうまく進まない恐れもあります。重要なのは、どうやってその課題に気づき、自分たちで行動を起こす気持ちになってもらうかです。

まずは、指摘を単なる問題提起ではなく、「一緒に解決するためのヒント」として捉えてもらうように働きかけます。そして、「なぜこれまで手をつけられなかったのか」を責めるのではなく、このカイゼンの意味を共に考え、解決策を模索します。

活動中に現れる「イラッ」や「エッ」という感情は、変化を生むための重要なヒントです。これらの感情にしっかり向き合い、放置されていた課題に着手することで、現場は大きく進化する可能性を秘めています。カイゼン活動を進める上で、「イラっとする感情」や「エッという反応」を恐れず、むしろそれらを活用していきましょう!