先回は、現場で「柿内さんならここでどのようにカイゼンしますか?」と聞かれた時の対応についてお話ししましたが、今回は「どうやってカイゼンのアイデアを見つけますか?」というご質問を受けた時の対応について私の考え方をお伝えします。
現場では、整理整頓の状況やムダがないかを見るという基本的なアプローチを行いますが、それに加えて、私が常に意識しているのが「この仕事をやらないで済ませられないか?」「やめられないか?」という視点です。この見方を持つようになったのは、ある経験がきっかけでした。
まだ私が新米のコンサルタントだった頃、現場カイゼンの指導をしている際に、ある作業の動作を減らすアイデアを提案していました。すると、社長から「動作のカイゼンもいいですが、そもそもこの作業は本当に必要なのですか?」と問いかけられたのです。その言葉に私はハッとしました。同じ作業を見ていても、私が動作のムダに注目していたのに対し、社長はその作業そのものに意味があるのかを見ていたのです。動作カイゼンと工程カイゼンの違いを、ここではっきりと意識しました。私は「そうですね、不要な可能性もありますね…」と答えましたが、内心ではそこに気付けなかった恥ずかしさで一杯でした。それ以来、どんな作業にも「やめられないか?」という視点を持ってカイゼンに取り組むようになりました。
例えば、過剰な品質保証やダブルチェックを見たとき、「このムダな検査作業をやめられないか?」と考えます。また、作業者がモノを探していたり、作業手順が複雑で迷っていたりするのを見たとき、「この付加価値のない仕事をやめられないか?」と考え、5Sや標準作業を見直します。さらに、ロボットやNCマシンがゆっくり動いているのを見たとき、「このプログラムのカイゼン遅れをやめられないか?」と考えます。そして、工程間にある過剰な中間在庫と作業者の手待ちを見たとき、「工程能力のアンバランスをやめられないか?」と問いかけます。
このように、私は「やめられないか?」という視点で現場を見つめ、常に工程の見直しを行い、工場の生産現場から徹底的にムダを削り取るカイゼンを行っています。これは、日本の製造業が一時期モノづくりの面で世界をリードした時の原動力となったものです。
しかし、これからの時代、その成果をどのように活かすかをこれまでとは違った見方で考えることも重要だと思っています。現場カイゼンで生まれた成果を単なるコストダウンや値引きに使うのではなく、DX化、新製品やサービスの開発、新たなマーケットの開拓といった未来に向けた投資に活かすべきです。これらの取り組みは、過去の経験の延長線上にあるものではなく、新たな挑戦となります。
現場では「やめられないか?」という見方で徹底的にムダを削る方向でのカイゼンを行いましたが、DX化や製品開発・マーケティング開拓のカイゼンでは、ムダを生む恐れがある新しいテーマに挑戦し、試行錯誤を重ねる必要があります。すぐに成果が生まれないからといってそれをムダと考えるのではなく、むしろ、「ムダから学び、それを次に活かす」というこれまでとは真逆の見方を持つことで、新たな成果が生まれるのです。
現場の改善ではムダを削れるだけ削った上で、そこから生まれた余力を未来の経営を牽引する力へと転換し、これからの時代に適した新しいカイゼンスタイルを共に確立していきましょう!