これまで身近なデジタル化の話をして参りましたが、今回は少し視点を変えて、現場で行うフィジカルなカイゼンについてお話しします。
現場で「柿内さんならここでどのようにカイゼンしますか?」と聞かれることがあります。その時、私はじっくり観察し考え自分のアイデアを提案します。そのアイデアが「素晴らしい、ぜひやってみたいです!」と評価されることが望ましいのですが、いつもそううまくいくわけではありません。
時には「そのアイデアは私たちも以前に試してみましたが、うまくいかなかったんです」と返されることもあります。そこで諦めず、「その時はどのようなやり方で試して、なぜ諦めたのですか?」と尋ねるようにしています。すると、最後までやり切らずに成果が出なかったり、予想外の問題が生じたりしたために「無理だ」と判断してしまったケースが多いのです。
現場では、過去に一度諦めた経験があると、「どうせ無理だ」と思い込んでしまい、それ以降のカイゼン機会を逃してしまうことがよくあります。私の仕事は、現場で現物を前にして、いろいろな質問や会話を繰り返して、「できない」という思い込みを取り除き、皆さんが持つ豊富な経験や知識からカイゼンの可能性を引き出すことです。
例えば、印刷工場のE社では、大型印刷機の用紙補充作業が作業効率を妨げていました。用紙がなくなるたびに、作業者が倉庫まで紙を取りに行かねばならず、その移動時間がムダになっていたのです。カイゼン会でこの問題を解決しようということになり「用紙を一定量保持できる置き場所を印刷機の近くに作れば移動回数を減らせるのでは?」と質問すると、即座に、「そのアイデアは過去に何回も出ていますが、スペースが狭くてできません」という反対意見が返ってきました。
そこで、「どのようにスペースを使っているのか、最近調べていますか?」と聞いてみると、実際にカイゼンを試みたのは随分前ということでした。そこで、早速現場に行ってみると、確かにスペースは狭いのですが、周囲には普段は使わないと思われるモノや設備がいくつも置かれています。「いつも使うモノや設備だけだったらこの場所はかなり広くなるのではありませんか?」と質問すると、リーダーから「以前からそう思っていましたが、自分では決められず手を付けられませんでした」と答えました。すると、その場にいた社長が、「確かにこの機械はもう随分使っていないね。」と言って下さったので、皆は自分たちにできることがあると気付いたようでした。
私は「設備だけでなく、備品や材料も不要品や不急品が多いようですが、いまここでそれらを別の場所にどけて場所を空けてみませんか?」と促すと、皆さんが賛同して即座に実行して下さり、狭くてカイゼンはムリと思っていた現場が、徐々に、広いスッキリした現場になりました。
これならば用紙が必要なだけ置けると思ったのですが、生産管理担当者から「用紙の種類が多いので、そんなにたくさんは置けない」という意見が出ました。毎月100種類もの紙を使っているとのことで、「1週間分の用紙だけでも置けませんか?」と尋ねると、「置けますが、当社の高品質な印刷には湿度管理が必要です」とまた別の答えが返ってきました。そこで「湿度を一定に保てる方法はないでしょうか?」と再度質問すると、他部署から「うちで余っているキャスター付きの小型ラックに防湿カバーを付けて吸湿材や除湿器と一緒に使えば、移動させやすく湿度も保てると思う」というアイデアが出され、すぐに実行されました。
そこから次々とアイデアが出始め、他部署からの協力もあり、新たなカイゼンが多く実現し、作業者からは「移動が減り、作業に集中できるようになり、効率が格段に向上しました!」との声が上がり、印刷中断時間は7割近く削減できました。
カイゼンには、過去の固定観念を捨て、柔軟な視点で状況を再確認し、新しいアイデアを出し合うことが大切です。このように現場で、諦めずに対話を重ね、現場の方々の知恵を引き出すことで、劇的な成果を生むことが可能です。私は現場で皆さんと一緒にワイワイガヤガヤと議論しながらカイゼンに取り組むことが、最も効果的と思っています。