石破首相が「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を目指すと所信表明演説で述べました。賃上げの実現には生産性の向上が必要で、手段として「リスキリング(学び直し)」など、従業員への投資が強調されています。
「学ぶ」という点で、世界との比較で日本は大幅に遅れているというデータがあります。経済産業省の資料によると、元々日本は諸外国と比べて人材教育への投資意識が低く、近年さらに減少しているということです。日本企業は社外の教育・研修プログラムなどへの投資を行わず、社員への教育は直接的な費用をかけないOJTが中心であるということです。先輩スタッフが片手間で教える通常業務を中心とした教育と、プロの専門家がすべてをしっかり教える教育プログラムの差は明らかです。
私が学生であったころ、「会社に入ると忙しくて遊ぶ暇がなくなるから、学生時代は遊ぶべきだ」とよく言われていました。欧米の大学は勉強をしないと卒業できませんが、日本の大学は欧米のようには勉強をしないでも卒業できるというのは事実でした。日本の立場が欧米の『キャッチアップ型』であった時はそれでも通用しましたが、今や日本は『先駆者型』の立場が求められており、学校だけでなく、企業内での教育も見直しが必要です。
自動車部品製造のB社は数年前から人手不足が深刻化し、不足を中途採用で補ってきました。応募があって入社が決まった場合、人が足りない職場に即戦力として十分な教育訓練をしないで「放り込む」といった使い方をしていました。その結果、誰も仕事ができるようにならず、その間の全員が退職しました。そこで、B社は考えを改め、中途入社者全員に3か月間の新人教育を実施することにしました。初月は基礎知識教育と全部署の体験、次の2ヶ月は配属部署において指導者と受講者のマンツーマンで作業訓練を行うようにしました。すると効果はてき面で、その後入社の3名は全員が仕事をしっかりと覚えて戦力として育ってきているのです。この例でも分かるように、改めて、人を計画的に教育・訓錬という手段を使って育てるという方針を決め、しっかりした計画を立て、その通りに実行することが大切です。この当たり前のことを一般的に多くの日本企業は軽視してきたといえます。
国が学び直しに力を入れることには賛成ですが、実際に学ぶのは個々の従業員です。国が費用を負担しても、学ぶための「時間や場所の提供」や「分かり易く実力が付く教材の選択」、そして「育った人材の活用」などの準備を会社が行う必要があります。
とはいえ、ただでさえ人手不足の中、教育時間をどう確保するかが課題ですが、私はここでもデジタルの活用が鍵になると考えます。これについては、今後更に考察していきます。
次回に続きます。