デジタル化によってできる最初のカイゼンの変化として、①情報の共有化、②見える化、③自動化、④速度感の向上が主になると思うとお話ししましたが、今回は最後の「速度感の向上」についてお話しいたします。
速度感には2つの側面があると考えています。1つは、従来からある「作業速度を向上させることによる生産性の向上」です。これは日本の製造業が比較的得意としてきたテーマです。もう1つは、「速度を上げることで顧客ニーズに迅速に対応し、より多くの信頼を勝ち取る」ことです。こちらは逆に苦手なテーマかもしれません。
まず、生産性向上のための速度感についてです。私はこれまで、さまざまな方法で「はやくする」カイゼンを実行してきました。分業や標準化、ボトルネックの解消、レイアウト改善、作業者のスキル向上、設備の加工速度アップ、工程省略などです。これらは、昔からある手法であり、デジタル化が前提ではありません。これらの従来から実行してきた作業カイゼンにデジタル技術を取り入れることで、さらなる速度アップが可能です。
例えば、作業面でのカイゼンでは、協働ロボットの活用や更に自動化された製造ライン、リモートモニタリングや遠隔操作などが実現します。同様に、情報処理としてのカイゼンとしては、リアルタイムのデータ収集と分析、クラウドベースの情報共有、AIによる経営予測・判断、デジタルツイン技術などが挙げられます。これらのデジタル技術は、従来のカイゼンを土台にすることで何倍もの力を発揮するものです。つまり、現場での5Sや作業カイゼンを継続し、それにデジタルを活用することで、さらに進化させるという順序が大切です。
次に、顧客との関係における速度感の向上についてです。コロナ禍をきっかけに広まったZoomなどのウェブ会議システムは、コロナが収束した現在も引き続き利用されています。これにより、移動時間や会議室の予約などが不要になり、いつでもすぐに会議ができるという「速度感」が得られました。しかし、もしコロナが起きなかったとすると、こんな便利なウェブ会議ですが、まだ今のようには広がっていないのではないかと思います。同様に考えると、社内の連絡では、メールよりもLINEやチャットワークのようなチャットツールの方が迅速で確実ですが、多くの企業ではまだメールや記録の残らない電話が主流です。コロナのような事件が起きないと広がらないのは、「速度」に対する評価が低いからなのではないかと感じます。
30年前に出版された古い本ですが、米国で書かれた『タイムベース競争戦略』というのがあります。この本では、1970年代にトヨタ生産方式を筆頭に、日本はモノづくりにおいて圧倒的な強さを誇っていた。欧米は、日本がリードタイムなどの時間面での速度感という新しいカイゼンの切り口を発見し実行したことに注目し、同様のカイゼンを開始し競争力を付けた。一方、多くの日本の企業はトヨタ生産方式を表面的に模倣し、手に入れた時間の速度感を顧客のニーズを満たすというところに使わず、コスト削減のみに利用し続け、「ハツカネズミの車回し」のようになっている、という辛辣な分析がされています。
デジタル化による速度感の向上は、単に作業効率を高めるだけでなく、顧客のニーズに素早く対応し、経営力を強化するためにもとても重要な要素です。
そのためには、この速度感の向上を、顧客ニーズを満たす迅速な対応、新しい商品・サービスの開発や新しいマーケットの開拓などに活用することが大切です。そうすることで市場の優位性を確立することができます。
従来の速度感の考え方だけにとらわれず、デジタル技術を活用して顧客ニーズに迅速に応え、経営戦略を強化することです。この速度感を武器に、さらなる前進を目指しましょう!