デジタル化によってできる最初のカイゼンの変化として、①情報の共有化、②見える化、③自動化、④速度感の向上が主になると思うとお話ししましたが、今回は2つ目の「見える化」についてお話しいたします。
「見える化」という言葉は、デジタル化が進む以前から使われており、さまざまな物事を目で見て分かるようにすることを指しています。私の師匠である慶応義塾大学名誉教授の中村善太郎先生は、「見える」➡「分かる」➡「行動する」というサイクルが回ることで「やる気が出る」と提唱しており、まず「見える」ことが重要だとされています。
例えば、情報には文章や数値のような左脳に働きかけるものや、絵や写真、グラフのように右脳に働きかけ直感を引き出すものがあります。工場ではこれまでも、こうした情報が工夫されて表示されてきました。実際、「見える化」という言葉が使われていなくても、結果として見える化に繋がるカイゼンが多く行われてきました。
同様に、5S活動も「見える化」に大きく貢献してきました。整理・整頓・清掃・清潔・しつけという5Sは、改めて考えると非常によくできた「見える化」の仕組みです。職場で必要なものが見つからず、無駄に新しく購入してしまう、あるいは、無いものをあると思い込んで探し続けてしまうといったことは、モノの状態が目に見えていないために起こりますが、整理・整頓を徹底することで、こうした問題を解消できます。
また、切削設備の安全カバーの透明部分が汚れていて、中の切削状況が見えないことはありませんか?精密機械加工のA社で、ある設備の品質にバラツキが起きるようになりました。プログラムをチェックしたり工具を入れ替えてみたりしたのですが状況は変わらず困っていたのですが、最終的に切削液を掛けるパイプの先が変形していたことが原因と分かりました。何故それが分からなかったかというと、元は透明であった安全カバーが汚れていたため状況が見えなくなっていたからです。プログラム制御であっても、狙い通りの切削が行われているかどうかを確認するには、状況が目で見える必要があります。清掃はそのための重要な活動であり、点検も兼ねた見える化の一環です。
このように、デジタル化があまり進んでいない時代でも、見える化はさまざまな形で実行され、大きな効果を挙げてきました。しかし、これだけで十分かというと、まだまだ見えていないものが多く存在します。5S活動でも同様に「見える化」に十分に踏み出せていない部分に着目する必要があります。より「見える化」した方が良いモノは、デジタル化によってその範囲をさらに広げ、活用することで、より大きな成果を生み出せるようになります。
現在は見えていないが、デジタル化によって見える化が進む可能性がある項目は多々あります。例として、生産面では生産の進捗状況、設備の稼働率や停止内容、不良品の量と発生原因、在庫状況などをリアルタイムで見られるようにすることが挙げられます。管理面では、製品ごとの生産コストや利益率、生産計画と実績の差異、設備保全の予定と履歴、金型の生産履歴なども見えるようになることが重要です。さらに、納期遵守率やクレーム状況、安全に関する情報も含まれます。これらの情報がリアルタイムで入力・自動計算され、経営情報が「見える化」されることで、経営判断が迅速に行えるようになります。
まずは、何を「見える化」したいのかを明確にし、それをどう実現するかを考えることが重要です。その上で、デジタル技術を活用してさらなる「見える化」を進め、経営の質を向上させましょう。