前回、ペーパーレス化からデジタル化を始めることを提案しましたが、ある方から次のような質問を受けました。
「カイゼンの場でペーパーレス化を従業員に提案したところ、『ペーパーレス化が、現在総務がしているパソコン入力を現場に移すことだとすると、結局のところ紙に字を書く時間がパソコンを入力する時間になるだけなので、パソコン入力に慣れていない私たちが入力をすると大きな効果にはならないのではないでしょうか?』と質問されました。どう答えればよいでしょうか?」というものです。
先回の文章にも書きましたが、この質問は、手段であるペーパーレス化が目的化してしまい、カイゼン効果を見失うリスクを示しています。確かに、現在の業務プロセスをそのままにしてペーパーレス化を進めるだけでは、効果は限定的です。ペーパーレス化の目的は、デジタル化を進めることで、デジタルを用いた新しい取り組みを可能にし、会社経営を変革することにあります。この会社ではその意図が社員に十分に伝わっておらず、カイゼンが問題解決に留まっており、課題達成型のアプローチが不足していると感じました。これは、特定の会社に限らず、一般的にみられる現象です。
そこで今回はペーパーレス化から始まるデジタル化によってどのような新しい取り組みが可能になるのか、次のステップについてお話しします。
デジタル化によってできる最初のカイゼンの変化は、①情報の共有化、②見える化、③自動化、④速度感の向上が主な4つになると思っています。これらは互いに関わり合いがあるのでそれぞれに共通点がありますが、順番にご説明して参ります。
① 情報の共有化
これは、日本の製造業が苦手としている部分ではないかと思います。
例えば、10年以上前にヨーロッパの空港で経験したことですが、帰国便を待っていた時、突然のアナウンスで呼び出されました。英語のアナウンスでしたので自分の名前以外の内容は全く分からず慌てました。しかし、近くにあったインフォメーションデスクに行き名前を告げると、誰から何をアナウンスされたかがすぐに分かりました。これは情報が組織内でしっかりと共有されている素晴らしい仕組みだと感心したことを今でも覚えています。
一方、つい最近羽田空港で同様に呼び出しを受けました。近くのインフォメーションデスクに行ったところ、ヨーロッパの空港のようにアナウンス内容は受付に共有されておらず、直接の対応は受けられませんでした。幸い、日本語の放送だったため問題はありませんでしたが、ヨーロッパでとっくにできていたことが日本ではまだできていないことに、非常に残念な気持ちになりました。たまたまの例ではありますが、この経験から、日本は情報の重要性を十分に理解し、効果的に共有するための組織づくりがまだ不足していると感じました。
製造業においても、情報の共有が不足していることで生じる不便さや効率低下を十分に認識し切れていないように思います。
これまでも事例をご紹介してきましたが、もし今現在の製造部門の生産や在庫の状況が営業部門や調達部門と共有されていれば、お互いの間での電話での問い合わせなどは必要なくなります。過去の記録も共有されていれば、言った言わないの行き違いもなくなります。
紙媒体の情報がベースであると情報の共有化は手間がかかり難しいのですが、デジタルを使うと意外と簡単に実行することが可能です。「こんな情報があったら便利だな」と思うものを探し、それらを共有できるようにしてみましょう。大きな効果が期待できます。
次回以降、その他の要素についても詳しく説明していきます。