脱力・カイゼントーク 第57回

どう進める日本式デジタル化

日本の製造業において、賃上げを継続するためにはデジタル化を活用したカイゼンが必要だと考え、デジタル化に関する連載を続けてきました。その記事を読んだ方から、「確かにデジタル化は必要なので、まずはペーパーレス化から始めたいと思います」という意見をいただきました。

私もこれまで「ペーパーレス化」という言葉を使ってきましたが、紙をなくすことが目的になってしまうと、本来の意図から外れてしまい、ただ紙をなくしただけの活動になってしまう恐れがあります。そこで今回は、ペーパーレス化とデジタル化の関係についてお話しします。

紙は、書類や図面、メモ、ラベル、梱包資材、ポスターなど、仕事のあらゆる場面で広く使われています。言うまでもありませんが、ペーパーレス化は、これらの紙のうち情報に関わる部分をデジタル化することを指します。

では、なぜ情報に関わる部分で紙媒体からデジタル化することが重要なのでしょうか。それは、デジタル化することで、効率が圧倒的に向上するからです。作られた情報が処理され、伝達され、分析され意思決定され行動に移ります。その後も保存され、都度活用されます。このように長期間にわたり、多くの人がかかわる情報が紙を媒体にしていると、印刷して運搬するというだけで時間がかかり、配布抜けや停滞などが発生するリスクもあります。また紙情報はその後の処理でコンピューターにインプットする手間がかかる、または探すなど機敏な対応ができません。その上、紙は保管が大変で、後からの検索も面倒です。さらに紙情報は個人や部門に属しており、常に共有することが困難です。その結果、全体最適のカイゼンが難しく、記録が残っていない際には「言った、言わない」の食い違いも起きます。これからは益々経営判断のスピードを上げ、生産性を上げる必要がありますが、デジタル化するとスピードと効率が飛躍的に向上します。

一方で、紙には独自の利点もあります。例えば、ポスターのように多くの人の目に触れる場所に継続的に貼り続けたい情報や、即座に正確な判断を必要とするモノに貼るラベル、あるいは直感的なメモやイメージ図を描く場面では、紙媒体が適しています。したがって、ペーパーレス化を進める際には、紙の持つ利点まで排除してしまわないよう注意が必要です。

例えば、私はKZ法と名付けた5S活動をすることがあります。最初に参加者全員で紙のカードをすぐ使わないモノや問題があるモノに貼りますが、紙のカードを貼るのをやめて、デジタルカメラで撮影する方法に置き換えることは考えられません。問題の情報を現場・現物で共有し、その場でアイデアを出し実行するのが目的だからです。しかし、不要品や不急品を特定した後に、参加者それぞれがカイゼンし続けるためには、そこで顕在化した問題点やその後のカイゼン状況を参加者全員が継続的に把握した上で、活動を続ける必要があります。そのためにはこれらの情報は常に最新のものである必要があり、紙情報では不可能なのでデジタル化は欠かせません。

これらの例からわかるように、デジタル化を進めることで、これまで紙を中心にした情報管理では不可能だった高度な経営が可能になります。その結果として、ペーパーレス化が進むのです。ペーパーレス化はあくまで手段であり、決して目的ではありません。

当たり前のことのように思えるかもしれませんが、言葉は時に独り歩きするものです。デジタル化によるカイゼンは、これまでのカイゼンの延長線上にあります。皆で目指す姿を共有し、そのための手段としてデジタル化を進めましょう!