脱力・カイゼントーク 第55回

デジタル化は誰のため? カイゼン実行

社長はデジタル化には大きな投資や専門家が必要と思っていたのでカイゼンはできないものと思い込んでいました。しかし、社内LANはあるので、工場に無線LANを導入し、それを使ってまずは現場の一部のパソコンで生産実績などを生産日報ではなくデジタル入力してみてはいかがでしょうかと提案しました。W社長は果たしてそういうことが可能なのかどうかが分からず困っていましたが、その場にいた若いリーダーのXさんが「社長やってみませんか、僕もある程度ならできると思います!」と言ってくれました。彼は以前からパソコンなどをもっと活用して仕事の流れを良くしたいと思っていたのですが、なかなか言い出せなかったとのことでした。

社長の許可をもらった若いリーダーのXさんは、同僚を集めてデジタル化を進める議論を始めました。ベテランの人の中には、これまで生産状況や在庫状況を記録したり、あるいは部品や備品などの請求をしたりを紙でしていたので、それをパソコンに変えることに嫌悪感を持つ人もいました。しかし、皆さんは会社の利益が昔のように出ていないことも知っていて、これまでと違う変化が必要だということは何となく感じていたようです。「Xさんが教えてくれるならやるよ」と条件付きですが受け入れてくれました。

社長から任され、仲間から頼りにされたXさんは、まずはパソコンで生産日報や在庫管理の共有画面を作ってみました。それを使う人に見せていろいろな意見を出してもらい、改善しました。そこでの会話を通じてこれまでパソコンの画面に触れていなかった人も使える安心感が出てきました。これにより社長が紙の日報を見てデータ入力の必要がなくなることと、今現在の情報を必要な人がその場で見ることができるようになるので、いちいち見に行ったり人に聞いたりする必要がなくなり、デジタル化を導入することで生産性が向上し利益が向上する可能性が見えてきました。

紙に書くという作業だけを見れば、いちいちパソコンを立ち上げて入力するより速いので現場の人には却って面倒な仕事のやり方に思えますが、この後の仕事を考えるとトータルではパソコンへの直接入力の方が断然効率が良いということも理解され、今後のデジタル化に対する意欲も生まれました。

W社長はこれまで、デジタル化とはどういうことかを自分が分からないので指示をしないで来ていましたが、若いリーダーが引き受けてくれたことで、私が言う、『社長の基本的な経営はデジタル化を導入してもこれまでと変わらない』ということを理解してくれたようでした。まだまだ先は長いですが、まずはデジタル化を進めることで利益を増やす第一歩を踏み出して下さったと確信しました。

まずは簡単なことからデジタル化の一歩を踏み出しましょう!