先日、講演会終了後に参加者の方が質問に来ました。その方は従業員20人弱の部品製作会社V社のW社長でした。
質問の内容は、利益を増やそうといろいろなカイゼンを工場でやっているが、なかなか成果が上がらない。どうしたらいいか?ということでした。よく勉強をされていて、これまで工場でやって来たカイゼン活動を熱心に紹介してくださったのですが、デジタル化についての話はほとんどありませんでした。その日の講演で私は日本の中小企業は、デジタル化をこれまでに積み上げてきたカイゼンの延長上で実行するべきだとお話ししていたので気になりました。
そこで、デジタル化はどのように取り組んでおられますか?と聞いてみると、「うちのような小さい企業では、人もおらずお金もないので導入は難しいかと思われます」との答えが返って来ました。
小さい会社であるにも関わらずこんなに頑張ってカイゼンしてきたという流れであったのが、デジタル化になった途端に小さい会社だからできないという正反対の流れに変わってしまい、私はとても残念に思いました。私は講演の中で、これまで同様に経営をどのようにカイゼンしていくかを考えて、その実行の方法に「デジタルが活用できないか?」という質問を一つ加えるだけで、これまでと違う新たな切り口が生まれると伝えているのです。そして、少子高齢化やインフレなどは大企業よりも小さい会社の方が大きな影響を受けるのですから、小さい会社であればあるほどデジタル化を進める必要があると思っています。
もちろん、中小の製造業で、既にデジタル化カイゼンを大いに進めておられる会社はあります。一方で、V社のようにほとんど手つかずになっている会社も見受けられます。デジタル化をこれまでのカイゼンの延長線上ともう少し気楽に考えればいいのですが、これまでとは全く違う自分たちの知らない新しいカイゼン方法のような捉え方をしているとそうなります。W社長もそういう考えであったようです。
W社長から工場を見て診断してほしいという要望があり、たまたま翌日に時間があったので、V社に伺いました。
現場はきちんと整理整頓されており、W社長がおっしゃる通り良いカイゼンがされていました。しかし、日報などの情報の管理となると、そこにはカイゼンの手が入っておらず、紙の生産日報に記入し、それを終業時に集めて、翌日にパソコンに入力するという仕事のやり方でした。その入力作業はどなたがしておられるのかを尋ねると、最近まで総務の仕事をしていた人が辞めたので、社長がやっているとのことでした。これからの経営を考えるためには、時間がいくらあっても足りない社長がデータ入力をせざるを得ないというだけで大きな問題です。それ以外にも急な注文の変更や営業からの生産状況の問い合わせなど電話が中心なので、人手がかかる上に機敏に対応できず生産性を落としていることは明らかでした。社長は生産日報や各種データのデジタル化にはネット環境の整備などの大きな投資が必要であり、専門家でないとできないことだと思っており、実行は考えていませんでした。
次回に続きます。