脱力・カイゼントーク 第52回

デジタル化について考える まとめ

3回に渡る「デジタル化について考える」の第一回で、私は日本で賃金を継続的に上げるためには、デジタル化を進めることが有効ですと書きました。私が考えるデジタル化の方法は、日本が得意としてきたボトムアップ的な従業員の知恵とカイゼン力を活用し、既存のシステムなどに大きなコストをかけず、必要なものを見定めデジタルの導入を進めることです。日本の製造業の生産ラインの特徴は、常にムダ取りを行い日々成長する点にあります。この特性を活かすべきだと考えています。

例えば、技術者と作業者が現状の作業をどうやっているか、そのプロセスを見える化し、そこに含まれるノウハウを書き出し、それらの情報を元にデジタル技術を使って更にカイゼンを進めるアプローチです。デジタル化においても、モノづくりにおける課題発見力とカイゼンの実行は人が担うからです。そして社内にいるデジタルが得意な人に現場カイゼンを学んでもらい、「こんなことがデジタル化でできたらありがたい」と投げかけ、それを実現してもらうなどです。

言うまでもありませんが、モノづくり自体は、質量あるモノを加工して、それを距離のある場所に運ぶ活動です。だからこそ、5Sやムダ取りという現場カイゼンが基本です。しかし、これらの現場でのカイゼン力の維持は非常に手間がかかり、多くの企業が苦労しています。そこで、それらの維持のためにデジタル技術を使い、問題点が発生する都度それを把握し、カイゼンの基礎が崩れないようにするのも上手なデジタルの使い方です。

例えば、5Sの清掃レベルを上げるためには、ロボット掃除機を使って工場を自動清掃することが役立ちます。しかし、ロボットだけではきれいにしきれない部分が出てくるでしょう。そこで、ロボットに任せるだけでなく、たまには人が雑巾がけをすることで、どこがどういう理由で綺麗にならないかを知ることができます。ロボットが入れない場所や床表面の凹凸、汚れの種類などが見つかります。そしてその発見した問題部分を修復し、更にロボットでできるようにカイゼンします。これはロボットに効率的に掃除させる一番上手な方法だと思います。

一方、ドイツのインダストリー4.0的な発想はトップダウンの生産システム作りで、それは随所に余裕があり、極力自動化を進めたいという考え方です。現場で手を入れてカイゼンすることは想定されていないと言われています。もし日本でインダストリー4.0にのっとったシステムを導入して使うだけであれば、それは日本の製造業の強みを打ち消すことになるでしょう。

中小の製造業では、経営者がデジタル化の方法を知らず、カイゼンを理解していないシステムの専門業者に丸投げしてしまうこともありそうですが、それではトップダウンの展開になってしまいます。上述のようなプロセスを取ることが望ましいです。

今回、私はこの一連の文章を書く過程で、デジタル化について新たな気付きがありました。これまではデジタル化を特別な新しいカイゼンの方法だと考えていました。しかし、今はデジタル技術で何ができるかを知り、それをカイゼンに取り入れるという、従来のカイゼンの考え方と何も変わらないと考えるようになりました。

デジタル化の起点は現場での気付きにあります。デジタルテクノロジーに関する教科書は多くありますが、自社の工場にどのように導入すればよいかを具体的に示してくれるものはありません。その答えは日々の仕事の中に隠れています。デジタルの時代でも、進化をさせるのは人間です。どんな困難があっても、それを乗り越える技能集団は強いのです。

このようにして、日本の製造業をデジタルとの融合によってさらに強力にし、生産性向上を継続的に実現できる基盤を築いていきましょう。