デジタル化の効果として重要な点は2つあります。1つ目は情報の同時共有化と見える化、そして2つ目は自動化です。
書類や電話、メールが情報伝達の主な手段であると、必要な情報が全員に伝わるまでに時間がかかります。例えば、営業が注文を取る際に、営業部からの注文情報が関連部門に伝達されます。その上で、調達部門からの原料の在庫状況の確認、設計・技術部門の設計期間の確認、製造部門の生産スケジュールなどそれぞれの関連部門が、自分たちの準備に取りかかります。この流れは伝言ゲームのようになりスピードに欠けるので、着手に遅れが出たり、変更に対応し切れなかったりなどの問題がしばしば起こります。また各部門内の情報は他部門には伝わらないので、抜けのない情報共有は容易ではありません。
そこでこのような問題の解決を、私が考える大きなコストをかけずに皆の力で実現できる一例を考えてみたいと思います。
まず、情報のスピード化と徹底ですが、ウェブやクラウドを使うとこれらの問題の多くは解決されます。例えば生産準備においては、チャットワークやTeamsのようなタスク機能のあるチャットを使えば、情報を全部門同時に共有できます。また、材料や部品の在庫量や発注状況、あるいは生産計画などの情報をタスクにして共有するとすべての人が情報をリアルタイムで参照・更新でき、問い合わせや現地に見に行く必要がなくなります。
生産においては、既存の生産管理システムに機能追加することで、生産管理システムのデータを活用しながらアナログな作業をデジタル化することができます。紙の日報記入を、タブレットへの入力に置き換えることで、作業者の日報記入作業を効率化するとともに、紙情報をシステムに入力する手間を省くことができます。さらに、その数値から製品ごとや作業者ごとの生産性や不良率などを自動計算して生産にかかわる状況をリアルタイムに把握できるようにすることで、これまでに必要であった、覚える、調べる、探す、計算する、見に行く、待つ、などが不要になり、状況判断がより確実になりカイゼン力が増します。
ただし、いくら便利だとしても、仕事のやり方をトップダウンで一気に変えてしまおうとすると反発も生まれ、うまく行かないことが多いようです。大きな流れはトップダウンで決めたとしても、デジタル化で新たに得られる数値からどのような情報がほしいかなどを皆で議論して、そこからシステムを作るプロセスを取ることが良いと思います。各部門がどのタイミングでどのような情報を基に何を行い、その結果を誰にどのように伝えるのかを全員で確認し、最適の連携方法を考えます。この議論を通じて、生産準備や生産管理が大幅にスムーズになり、リードタイムの短縮や生産性向上が実現することが分かり、デジタル化推進の意欲が生まれます。
どのような情報が必要で、どのように共有するのが最適かを議論し、その結果をもとに、簡単で使いやすいデジタルツールを選定し、導入します。初期コストを抑えつつ、効果的な情報共有が実現できます。
これまでのカイゼンを活かしてデジタル化を成功させるためには、全員が参加するボトムアップのアプローチが必要です。トップダウンの指示だけでは、現場の状況やニーズに合わないことが多く、効果が十分に発揮されません。全員が参加することで、各部門のニーズに合ったシステムが構築され、デジタル化の効果を最大限に引き出すことができます。現場の知識を活かしたボトムアップのデジタル化こそが、成功への鍵となるのです。
次回に続きます。