現在の日本では、30年にわたるデフレが終わり、物価が上昇しインフレが始まっています。この変化に伴い、人手不足と相まって賃上げの必要性が高まっています。今年度は大手企業を中心にこれまでを大きく上回る賃上げが行われていますが、この賃上げを継続するためには、更に生産性を向上させる必要があります。
これまでもずっと生産性向上を行ってきた企業にとっては、どうやって更なる生産性向上を実現するかは大きな課題ですが、その答えのひとつは間違いなくデジタル化です。
しかし、スイスのビジネススクールIMDによる最新の世界デジタル競争力ランキングによると、日本は世界64カ国・地域で過去最低の32位に位置しています。1位はアメリカ、2位はオランダで、アジアではシンガポールが3位、韓国が6位、台湾が9位、中国が19位に入っています。残念ながら日本の順位は低いのですが、この傾向は日本の製造業のモノづくりにも表れていて、それが生産性の国際競争力の後退にもつながっていると感じています。しかしこの状況は必ず変えることができると私は確信しています。
必ず変えられるということには根拠があります。それは、日本の製造業のモノづくりのレベルが他国と較べて明らかに高いことにあります。同じ製品を同じ製法で生産した場合、品質も現場の労働生産性も日本で作った方が上であることが多いのです。理由は日本の現場がカイゼンをして、5Sを徹底しムダを排除しているからです。
一方で、海外の競合企業がデジタル化を進め管理業務などを自動化している場合、いくら日本の現場の労働生産性が高いと言っても、トータルの生産性で劣る可能性があります。そこで、日本もデジタル化を進めて同等の管理レベルを達成すれば、日本のモノづくりは今より断然良くなり優位に立つことができます。なぜならば、基本のモノづくりのレベルが高いため、デジタル化で同じ管理が実現すれば、より高い成果が得られるからです。
モノ作りのカイゼンは一朝一夕に成し遂げられるものではなく、継続的な努力が必要です。しかし、デジタル化は比較的短時間で実現可能です。だからこそ、今、日本の製造業はデジタル化のカイゼンに力を入れるべきなのです。
ただし、デジタル化すれば成果が出るというわけではありません。先の44話でご紹介しましたが、社内に人材がいなかったため、専門のコンサルタントに任せて設備の稼働状況が分かるデジタル化を進めたものの、現場に稼働状況を分析してカイゼンする習慣がなかったため、誰もその機能を活用せず、結果として宝の持ち腐れになったという例もあります。
私はこのコラムで2021年9月から20回にわたり「新しいモノづくりの考え方」として日本の中小企業が取るべきデジタル化のアプローチについて書きましたが、やはり一方的にトップダウンでデジタル化を進める方法より、かかわりのある人たちを巻き込んだデジタル化カイゼンのアプローチが良い結果を生むと思います。
次回に続きます。