欧米ではトップダウン経営が一般的ですが、日本ではボトムアップ経営が主流とされています。特に多くのモノづくりの現場では、ボトムアップ型のカイゼン活動が行われており、これが日本の強みとされています。ここでいうボトムアップとは、経営の方向性は経営者が決定し、それを従業員と共有した上で、具体的なカイゼンの実行は従業員に大幅な自由度を与えた自主性に任せる体制です。これは、カイゼンをボトムアップで実行するというトップの判断とも言えます。
数年前、自動車部品を生産するT社で大きな問題が発生しました。大手自動車メーカーから新型車の大型部品の注文を受けましたが、その部品形状が複雑で予想以上に場所を取ることが分かりました。予定していた場所には収まり切らず、外部に倉庫を借りる検討をしたところ、倉庫代や運搬、管理のコストが高く、採算が合わない状況でした。契約済みのため断ることもできず、社長は頭を抱えましたが、工場内に置き場所を設ける以外の方法はないと判断しました。
しかし、工場内は決して場所にゆとりがある状況ではなく、かなりの困難が予想されました。そこで社長はこの難局を全員参加のカイゼンで乗り切ることを決断しました。現場のリーダーたちを集めて、利益が出ない現状、作業者の手間が増えていること、運搬コストや作業量など様々な状況を説明し、皆で問題を共有し、どうすれば倉庫を借りずに済むかを考えました。リーダーたちは自分の職場の利益でなく、全社の利益に貢献する様々なアイデアを出し合い解決策を模索しました。これは、日産の元会長ゴーン氏が実行したクロスファンクショナルチームのような取り組みです。
まず、工場内のスペースを再確認しました。各部署の材料や部品の配置を見直し、無駄なスペースがないか徹底的に調査しました。古い部品や使われていない工具が場所を取っていたため、これらを整理してスペースを確保しました。
次に、在庫管理のカイゼンに着手しました。各部署でバラバラに管理されていた在庫を一元化し、必要な部品を必要な時に取り出せるようにしました。この方法で、重複して保管されていた部品を減らし、さらにスペースを空けることができました。
これ以外にも、全員が自分たちの知識や経験を持ち寄り、活発に議論しながらカイゼンを進め、最終的に必要なスペースを確保し、外部の倉庫を借りる必要がなくなりました。
社長はこの全員参加の活動がなければこの成果を生むことはできなかったと実感し、従業員の積極的なカイゼン実行に感謝しました。従業員たちは自分たちの力で大きな経営問題を解決できたという自信を持つようになりました。
この一連のカイゼン活動は、T社の経営に大きな影響を与えました。従業員たちは引き続き現場のカイゼンに取り組み、さらなる効率化と生産性向上を目指しています。経営者のトップダウンと従業員のボトムアップが一体となってカイゼンに取り組むことの大切さに気付いた経験でした。
従業員に対してもっと強く言ってもらいたいという電話から、改めてボトムアップ型カイゼンについて考えてみました。もちろん時と場合によってトップダウンとボトムアップの使い分けは変わると思いますが、基本的には従業員の持てる力をフルに発揮してもらい、より多くの成果を上げるのは今回お話ししたボトムアップ型カイゼンだと改めて思いました。