
私はカイゼンのコンサルタントとして30年以上活動してきましたが、ふと振り返ってみると、これまで「カイゼンとは何か?」という問いに対して、明確に言葉でまとめたことがなかったことに気づきました。そこで今回、自分のカイゼン観を見つめ直し、整理してみたいと思います。
私は「カイゼン」という言葉を、あえてカタカナで表記しています。それは、日常的に使われる「改善(善く改める)」という一般的な意味ではなく、モノづくりの現場に根差した活動、そして「気付き」と「意志」をもって取り組むという観点で限定的に使いたいからです。私にとってカイゼンとは、単に作業手順を見直したり、効率を上げたりするだけの活動ではなく、人が気付き、動き、変化を生み出していく活動だと考えています。
では、改めて「カイゼン」とは何か?──それは一言で言えば、「今あるものを、より良くすること」です。つまり、ゼロからまったく新しいものを生み出す「発明」とは異なり、すでに存在する仕組みやモノに目を向けて、それを磨き上げていく取り組みです。すなわち、特別な知識や経験がなくても、誰もが参加できる活動であることが、カイゼンの大きな特長です。もちろん、必要に迫られて工夫した結果、新しい仕組みや方法が生まれることもあります。その場合も、目的が「より良くする」ことであるならば、それは「発明」というより、やはり「カイゼン」と呼ぶのがふさわしいと私は思います。
ところが近年では、カイゼンの本来の意味が私の意図に反して曖昧になっている場面を目にすることがあります。たとえば、「マイナスをゼロに戻す」ことまでも「カイゼン」と呼ぶ例があります。製造現場で言えば、不良品の手直しや不具合のある設備の修理がそれに当たります。もちろん、そうした対応は大切な仕事です。しかし、いくら自分たちの力で実行したと言ってもそれが同じ問題の繰り返しに場当たり的に対応しているだけであれば、それは私が考えるカイゼンとは異なります。カイゼンとは、問題の根本原因に踏み込み、再発を防ぎ、次につながる変化を生み出すことを目指す活動なのです。
たとえば、「生産の遅れをゼロにした」としても、単に残業や応援要員で帳尻を合わせただけであれば、それは本当の意味でのカイゼンとは言えません。根本的な問題解決にはなっていないからです。だからこそ、「カイゼン」と「それに似た行動」とを正しく区別する視点が重要です。こうした判断はたしかに難しい面もありますが、その場しのぎの対応を「カイゼン」と呼んでしまうと、現場の人たちは「自分たちはカイゼンをしている」と思い込んでしまい、本来のカイゼンが持つ大きな力を活用するチャンスを失うことになりかねません。その結果、会社全体の力が高まらず、将来的に行き詰まることになったら困ります。だからこそ、「カイゼンとは何か?」を明確に定義し、全社で共有していく必要があるのです。
以上を踏まえると、カイゼンとは単なる修理やその場しのぎではなく、「根本原因を見極め、再発を防ぎ、より良い未来をつくる」ための取り組みです。だからこそ、改めて「カイゼンとは何か?」を問い直し、その定義を正しく共有することが、これからの企業経営においてますます重要になっていくのだと思います。次回以降は、この基本的な考え方を土台に、現場でカイゼンを継続させる具体的な切り口について考えてみたいと思います。