前回は現在の品質管理者に求められる資質についてお伝えしました。今回は、これから先の時代の品質がどう変わっていくのかについて考えてみたいと思います。
これまで日本の製造業は「品質第一」を掲げ、良いものをつくることで世界中の信頼を得てきました。壊れにくく、性能が安定し、細部まで丁寧につくられている日本製品は高く評価されてきました。実際、米国の調査会社J.D.パワーが行う自動車初期品質調査では、10年以上前まで日本車がランキングの上位を独占していました。ところが最近では、韓国やアメリカのメーカーも上位に入り、日本車の存在感が以前ほどではなくなっています。なぜでしょうか。
その理由の一つは、かつて日本車が圧倒的に強かった「機能品質」、つまり「壊れにくい」「燃費が良い」「性能が安定している」といった品質が、今ではどの国のメーカーも当たり前に満たすようになり、差が小さくなってきたことです。もちろん今でも日本車は高いレベルを保っていますが、かつてのような大きな優位性は薄れています。「機能品質」はすでに「当たり前品質」の領域に入り、今の評価基準は「魅力品質」へと移っています。たとえば、ガソリン軽油以外の燃料形式、デザイン、内装の質感、スマートフォンとの連携といった、環境や感性に訴える要素が重視されるようになってきているのですが、その分野での日本車の評価は残念ながら高くありません。つまり、お客様が求める品質の基準そのものが、変わってきており、同じ「品質」という言葉でもその内容が以前とは違うということです。
こうした変化に対して、トヨタはすでに動き始めています。第83回でもお伝えしましたが、2025年2月22日の日経新聞コラム『トヨタ、カローラ伝説との決別─新たな大衆車の時代へ』によれば、「すべてのカローラがアウトバーンを走れる必要はないのではないか」ということを中国車のコスト構造を見て気づいたとあります。過剰品質を見直し、各ユーザーにとって「ちょうど良い品質」を追及することで、開発・製造コストを抑え、競争力を高めるということです。
さらにその先として、日経ビジネス2025年6月16日号の「リマニュファクチャリング特集」では、iPhoneなどが修理可能な構造へと見直されている例が紹介されていました。使い捨てではなく、長く使える設計。修理しやすい構造、部品の再利用、リサイクル素材の活用など、持続可能性を重視した品質が重視されつつあります。
このような流れの中で、品質管理の役割も大きく変わると思います。これまでのように、「不良を見つけて止める」という役割だけではなく、マーケティングや設計部門と連携し「どのレベルの品質を、誰のために、どう実現するか」を現場視点で考え、意見を伝えることなどが求められるのではないでしょうか。たとえば、リサイクル材を使ったときの性能評価、修理し易くするために製品構造にモジュール化を提案といったことも、品質管理の重要な仕事になってきています。品質はもはや工場の中だけで完結する話ではなく、社会や未来までも視野に入れたものになっていくと思うのです。
こうした変化の時代にあって、品質管理者に求められるのは、「世の中の変化を的確に捉え、これから求められる品質について考え、自分の目の前の仕事を少しずつ変えていくこと」だと思います。社会の変化から目を逸らさず、お客様の声に耳を傾け、現場の視点で「今までと違うやり方が必要ではないか」と問い直す。そして、他部署と積極的に意見を交わしていく。そうした小さな挑戦の積み重ねが、これからの品質を支える大きな力になっていくのではないでしょうか。