新しいモノづくりの考え方 第9回

これからの日本式デジタル化⑧

先回の最後で、デジタル化を進めることでよりレベルの高い全体最適を達成することができると思うと申し上げました。今回はそのお話しをいたします。

私はこれまで30年間に渡り全体最適を意識して現場でカイゼンをしてきました。できたこともたくさんありますが、なかなか難しくて決定的な成果を出せていないテーマも少なからずあります。全体最適ということは、部門をまたがり距離や時間を飛び越えて的確な状況判断とカイゼン活動をする必要があるのですが、それが難しかった。できなかった主なカイゼンを列挙してみます。

①現場のカイゼン成果をすべて数値化して評価する。
生産性や品質のカイゼンをした結果、どのような成果が出たのか?は誰でもが知りたいことなのですが、その元になるデータは社内では別々の部署が扱っています。例えば時間データは総務、品質データは品管、売り上げデータは営業といったことです。このように分散しているデータを各部門が自分たちで集めて計算するとなると、時間と十分なスキルがなくとても大変なことでした。

②今現在の生産状況の正確な把握。
今現在、何が完成しているか、あるいはいつ完成するか、といったことが即座に分からず、営業から頻繁に問い合わせが入るので現場の監督者が忙殺されることがありました。

③これまでのカイゼンの経過の把握。
カイゼンをしてきた結果、過去と比較して何がどの位よくなったのか、あるいは他工場のカイゼン成果との比較などが即座に分からないのでカイゼンに達成感や緊迫感が出ない。

④他部門の情報の正確な把握。
営業が実施する特売会の情報が入らなかったので事前に在庫の準備ができず品切れを起こした、あるいは在庫情報が不十分で、生産が切れたということがあった。

4つのできなかったことを思い出してみましたが、すべてタイムリーに情報を入手することとその処理が難しかったという事例です。

この4つは以前であれば実行することはとても難しく、たとえできたとしてもとても大きな費用がかかったものでした。しかし今ならほとんどお金をかけずに、そしてそれだけでなく外部の専門家でなく社内の人の力で実行することが可能なことになっています。この数年で情報に関するデジタル的な技術や環境が急速に進歩し、極端ですがスマホさえあればほとんどのことができてしまうといったレベルに置き換わっているからです。

①は全部門でそれぞれが必要な指標と必要なデータを共有化して、それに合ったプログラムを例えばエクセルで一回作れば、その後は特別なことをしなくても毎月自動的に数字が出て来るようになります。②は無線ICタグとリーダーを使ってモノの位置と加工状況を常時把握することができます。③はクラウドを使って共通ホルダーを作れば大丈夫です。④はスマホのチャット機能を使うと常に必要な部門間での情報の共有ができます。

偉そうにこうすればできると申し上げましたが、私自身はこのようなデジタルの仕事を自分ですべてできるほどはまだ理解できていません。実は指導先の方々が若い人たちの力も借りながら実行して発表して下さったことをあたかも自分でやったかのように書いてみただけです。この中に外部の専門家に頼んだカイゼンは一つもありません。すべて自前。これまでに培ってきたカイゼンの技術をベースにして、デジタルに強い若い人にも入って戴いて一緒にチャレンジした結果です。デジタルに関する知識とスマホやパソコンそして場合によってはあとちょっとの部品の買い足しでできることなのです。

これまでのアナログの時代にとても難しかったことが、デジタルの力を借りるといとも簡単にできてしまうという驚きの事実です。「デジタル化は全体最適とものすごく相性が良く、デジタル化を進めることで全体最適を達成することができる」と思うと先回申し上げたのはこのようなことが私の目の前で次々と起きている事実からの気づきです。

デジタル化の恩恵は、はやさだけではありません。日本の製造業が強みとする全体最適のカイゼンを更に強化することができる驚きのツールです。食わず嫌いはもったいないです。どんどん進めましょう!もしお困りのことがおありでしたらデジタル化の事例やヒントとなるアドバイスはお伝えできると思います。