新しいモノづくりの考え方 第5回

これからの日本式デジタル化④

―これからの日本式デジタル化―というサブタイトルで、これまでの3回はアナログの考え方も大切にしつつ、若い人の力も借りてデジタルの要素を加えたカイゼンを着実に進めていくのはどうかという話を進めて参りました。しかしそんなのんびりしたことを言っていていいのか!?という声も聞こえてきます。

ドイツの「Industry 4.0」、中国の「中国製造2025」のような国家レベルのモノづくりの考え方が今の日本に存在しているかというと、「ソサエティ5.0」という政府広報が発表している姿がそれに当たるかもしれませんが、モノづくりの方向性を示しているようには見えません。そうするとメディアが言うように日本の製造業はデジタル化の面では大きく遅れてしまったのではないかと心配になるかもしれません。

日本には昔から全社でカイゼンに取り組むという姿勢があり、社長が現場で作業服を着て従業員と話をしたり、時には作業をしたりという、欧米ではほぼ有り得ないことができていました。その結果、日本の社長は設備の稼働率や品質状況といった現場発のデータを当たり前のように持っていますが、例えば労働組合が強いドイツの会社などでは全く当り前ではなかったのです。しかし設備にセンサーを取り付けて直接に情報を取ることができるようになり、ドイツでもようやく経営者が現場情報を自由に手に入れられるようになったという側面はあるようです。すなわち日本のレベルにようやく追いついたということです。しかしそれも情報の面のみでの話であり、経営者も従業員も一緒にカイゼンするといった日本のレベルには決して到達できないと思います。

欧米はトップが戦略を作りトップダウンで実行しますが、日本は皆で行うカイゼンという戦術が大きな成果を出し、それが戦略になっていくことがしばしばあります。トヨタ生産システムもそうであったと思います。

私が考える日本の中小企業が行うデジタルを使うカイゼンのアプローチは、社長も入って全体最適で進めますが、活動はボトムアップです。これまで築いてきたカイゼンの力をベースに、大きなお金をかけずにデジタル化を進めます。例えば設備に秋葉原やAmazonで買ったセンサーを取り付けて、これまで見えなかった情報を見える化します。大げさに聞こえるかもしれませんが、これはIT(Information Technology)の内製化です。欧米のIT情報は経営者に行きますが、日本ではITからの情報を受けるのは現場の作業者や管理監督者です。彼らがより良いモノづくりを実行することで経営が良くなるのです。このコツコツとしたデジタルを取り入れた新しい現場カイゼンを数年続けていくと、海外のトップダウンの高価な仕組みと変わらない成果が、比較にならないくらいの安価で出て来ることと思います。

これまで培った全員参加のカイゼン活動を、デジタルを加えたさらに強固なカイゼン活動へと変えていきましょう!

時代はものすごく速く動いており、IT化という言葉も古くなりつつあるようです。ITはICT(Information and Communication Technology)へと変わり、更にDX(Digital Transformation)という言葉も頻繁に使われています。これらの素早い変化に日本のカイゼンの力を活用して対応していきたいと思います。