
10月になりました。
10月4日午後4時、私は来たばかりの日経新聞夕刊を手に取りました。1面トップは『自民新総裁 午後に選出 小泉・高市・林氏軸に決戦か』でした。しかし、その時点で、すでに新総裁は高市早苗氏に決まっており、私はネットのニュースでとっくに知っておりました。ニュースを期待して紙面を開いたのですが、私が読みたい記事はありませんでした。
念のため日経電子版を確認すると、さすがにその情報は反映されていました。けれども、速報性と視認性という点ではSNSの方が素早く、要点も把握しやすい。そうなると、少なくとも速報を得る目的に限れば「新聞」を読む必然性はありません。今に始まったことではありませんが、新聞は、最新の情報を得る手段としては、その機能を失っています。
実際、日本の新聞は紙の発行部数が長期的に減少しており、2004年には5300万部でしたが2024年には約2600万部へと落ち込んでいます。日本新聞協会の資料によれば、新聞事業に直接かかわる収益(紙媒体販売+広告)だけでは成り立たず、他事業(不動産など)での黒字を使って損益を補填しているケースが複数社にある、と指摘されています。
そこで、海外の新聞について調べてみました。ニューヨーク・タイムズはデジタル化へのシフトを徹底し、2025年第2四半期時点でデジタル単体の有料会員が約1130万人、総会員数が約1188万人。紙の購読は60万人弱にとどまり、概ね「約20対1」の構図になっています。同社は2024年通期の年次報告でも営業利益を伸ばしており、デジタル購読収入が成長を支えていることを明確にしています。
もちろん、新聞業界を取り巻く環境は日本とアメリカで異なります。市場規模や広告構造、読者層の違いもあります。しかしそれを考慮しても、日本の新聞社のデジタル化への動きはやはり遅いと感じます。変化を察知して実行に移すスピードの差が、両国の収益構造の違いとして表れているように思うのです。
この出来事を通して、私は二つのことを考えました。一つは、デジタル化の重要性。もう一つは、世の中の動きに合わせて自分自身も状況に合わせて変化することの大切さです。紙の形体にとどまる限り、変化の速度に追いつけない場面が必然的に生まれます。また、新聞に求められる内容も変化していくことは間違いありません。速報の座をSNSに譲った新聞は、その目的を世の中の出来事の背景の掘り下げや分析という役割を強めることが必要だという論評を見たことがあります。
では、モノづくりにおいてはどうでしょうか。私は新聞と同様に「デジタル化」と「状況に合わせて変化すること」が必要だと考えます。受注−設計—調達—生産—出荷の各工程で、紙を使った情報伝達から、タブレットなどのデジタル機器によるリアルタイムの可視化を実現する体制は、これからの時代の前提になります。実際、私が関わった現場でも、生産計画と生産状況の見える化を進めたことで、作業者間の生産時間のバラツキや不良発生の傾向を素早く掴むことができるようになり、これまで停滞していた生産性・品質向上の改善スピードが大幅に向上しました。それと、「上手に作る」から「お客様が希望する価値を見出して提供する」へと変身していくことが必要だと思います。そうすれば、モノづくりはこれからも社会に通用する価値を生み続けられると、私は確信します。
デジタル化への対応が遅れる日本の新聞業界の姿は、変化できない組織が抱えるリスクを示しています。モノづくりの世界でも同様に、デジタル化と、顧客の求める価値をいかに素早く形にできるかのような迅速な対応こそが生き残りの鍵であり、その力こそがこれからの時代の真の競争力になると思います。
追記 現在の日本における新聞の状況について問題点を書きましたが、実は私は週末に、のんびりと切り抜きをしながら新聞を読むのが好きです。SNSのように自分の好みの記事だけが優先的に表示されるのとは違い、新聞にはあらゆるジャンルの記事が載っており、自分の関心事以外の情報から新たな気づきを得られるのも魅力です。さらに、大きな紙面全体を俯瞰しながらページをめくることで、世の中の動きを直感的に捉えられるという点も、新聞ならではの良さだと思います。私は、新聞がSNSでは得られない魅力を生かしながら、新しい形の情報媒体として再び輝いてほしいと願っています。
日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫