5月のご挨拶

5月になりました。

製造現場では、一見すると過ごしやすい陽気が続き、仕事も順調に進むように思われがちですが、実はこの時期ならではの品質管理上の大きなリスクが潜んでいます。連休で設備が長期間停止していたことによる立ち上げ不具合や、連休ボケや5月病などの人的リスクに加え、もう一つ見逃されやすい要因があります。それが「湿度」です。

日本では、5月の後半から急激に湿度が上がり始めます。冬型から夏型への気圧配置の変化に伴い、南から湿った空気が流れ込み、梅雨前線も形成され始めるためです。5月初旬と比べると、わずか数週間で湿度が一気に上昇し、現場の感覚だけでは変化に気づきにくいことも少なくありません。

工場では、「温度」は感じやすくエアコンなどで簡単に管理できるため注目されやすいのですが、「湿度」は感じにくいうえに対応も簡単ではないため、管理の優先順位が下がってしまいがちです。しかし湿度が高まると、材料表面にサビが出たり、空気中の浮遊物が皮膜を作ったり、金型表面に結露が起き樹脂成形品に微細な不良が生じたりといった、さまざまな品質問題のリスクが高まります。あるいは、高湿度によりグリスの潤滑性能が低下し、設備のベアリングや摺動部が焼き付くことで設備故障が起きることもあります。湿度による影響は目に見えにくいため、問題に気づいた時にはすでに手遅れになっているケースも少なくありません。

一方で、湿度は人の健康面にも悪影響を与えます。湿度が高いと、空気中が既に水分で飽和しているので汗が蒸発しにくくなり、体温をうまく下げられないため、疲労感が高まるだけでなく、熱中症のリスクが高まります。熱中症は温度と湿度の複合で起きるもので、湿度だけでなく気温も高い日には、まだ体が暑さに慣れていないため、熱中症にかかる可能性が高くなります。こうした中では、ちょっとした確認不足や思い込みによる作業ミスが発生し、それが品質不良に繋がる危険があります。特に湿度変化による影響は目に見えないため、作業者が「いつも通り」に作業を進めてしまうと、問題を見逃しやすくなります。結果として、大きな品質トラブルに発展するリスクが高まるのです。

だからこそ、5月末から6月にかけては「温度」だけでなく「湿度」にも目を向け、基準から外れたらすぐに対応できる体制を整えておく必要があります。昨年この時期、樹脂成形を行うA社と金属加工を行うB社では、湿度上昇に起因する不良が多発しました。A社では一部の材料の保管状態が悪く水分含有量が増えたことと、金型表面に結露が起きたことが原因となり、B社では保管中の金属材料に目に見えない微小のサビが発生していたのに気付かず加工してしまったことが原因となり不良が増えました。両社とも温度変化には対応していたものの、湿度変化については不十分であったのです。そこで、今年は連休前に材料の密閉保存を確認し、必要箇所に防錆処理を施し、連休明けに使用予定の金型も事前チェックを実施するなど対策を徹底した結果、昨年のような不良発生を防ぐことができました。

ここで改めて強調したいのは、目の前に起きた不良に対応するだけではなく、1年を通して「どの時期に、どんなリスクが潜んでいるか」をあらかじめ抽出し、先手を打って防止する姿勢が大切だということです。たとえば食品業界は湿度対策には敏感です。5月の湿度上昇とともにカビや菌の繁殖リスクが高まるため、原材料や製品の保管条件を見直すなど季節に応じた対応を行っています。しかし、お歳暮やお中元といった年に一度の大きな出荷イベントとなると、準備不足で慌ただしい対応に終始する工場がまだ見受けられます。間隔が空いていますが、毎年繰り返し起きることであるからこそ、事前に必要な準備のチェックリストを整え、慌てることのないよう備えておくことが重要です。

現場カイゼのテーマとして、こうした「時期特有のリスク」に合わせて備えることも非常に重要です。不良を未然に防ぐためには、その時期特有のリスクに目を向け、先回りした管理を徹底することが求められます。5月は湿度管理とあわせて人のコンディション管理にも注意を払い、現場全体で品質トラブルを防いでいきましょう。


日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫