3月のご挨拶

3月になりました。寒かった冬が終わり、木々が新しく芽吹き始める季節です。そこで今月は「新しいものを生み出す」というテーマで考えてみたいと思います。

世の中の大きな変化が続く中で、私たちは先の見えない状況に不安を感じ、「なるようになるしかない」と受け身になってしまうことがあるかもしれません。しかし、こうした時こそ、目先の変化に振り回されるのでなく、普遍的で本質的な視点を持ち続けることが大切です。

その視点の一つとして「両利きの経営」という考え方があります。これは、既存の強みを活かしながら効率化やカイゼンを進める「深化(Exploitation)」と、新しい技術や市場に挑戦し、革新を生み出す「探索(Exploration)」を両立させることで、短期的な成果と長期的な成長を同時に実現しようとするものです。これまで培ってきたモノづくりの力を大切にしながら、お客様のニーズに応え未来を切り開くことが、これからの経営の鍵になると確信しています。

「うちは下請けだから製品開発なんてできない」と思われ方もいるかもしれません。しかし、ここで言う「探索」は、既存の仕事の延長線上で「お客様がより喜ぶサービスはないか」「現行製品にプラスαの要素を加えて別の製品にできないか」といった視点で考えることでよいのです。

実際に、モノづくりの現場では、カイゼンの過程から新製品が生まれることが少なくありません。お客様の何気ないご意見に対応したことで新たなニーズを発見されたことはありませんか?あるいは、技術的なカイゼンによって現行の製品の耐久性や重さを10倍とか、1/10とかに変えることで新たな製品が生まれることもあります。こうした事例は皆さんの現場にもきっとあるのではないでしょうか。

新しい製品やサービスは、必ずしも専門家だけが生み出すものではなく、現場のカイゼン活動から生まれることも多いのです。現場の知恵や工夫が積み重なり、やがて大きな変革へとつながっていきます。

私も自分の仕事で新たな取り組みを進めています。現在、これまで実践してきたカイゼンを体系化し、「経営診断の基準」としてまとめることを目指しています。また、リスキリング時代に対応するため、eラーニングのテキスト作成にも取り組んでいます。これは、現場で働く方々がいつでも学べる環境を整えることで、カイゼンの力をより多くの人に広げていく試みです。

新しいものを生み出すには、ゼロから発想するだけではなく、既存の仕事を見直すことも重要な手段の一つです。新たな技術との融合、既存の技術に対する応用など、身近なところにある問題が結果として大きな発明になることもあります。カイゼンは5Sやムダ取りだけではなく、その先にも大きく影響し広がっています。現場で生まれた製品や技術を正しく評価し、適切にPRしていくことが、厳しい時代を生き抜くためには不可欠です。カイゼンをして、その経験や知識を蓄積しそれを基に新たな製品やマーケットを生み出す。こうしたサイクルを回し続けることが求められています。

変化の激しい時代において、企業が生き残り、発展していくためには、「カイゼン」と「新しい価値の創出」の両方を意識することが不可欠です。その出発点となるのは、お客様の声を聞き、現場の課題に真剣に向き合う姿勢です。小さなカイゼンの積み重ねが新たな可能性を広げ、やがて大きな変革へとつながっていくでしょう。

この春、新しい何かを生み出す第一歩を踏み出してみませんか?


日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫