毎年この時期になると、スケジュール帳を眺めながら一年を振り返ります。今年も素晴らしいことや大変だったことなど、さまざまな出来事がありました。生産遅れや不良流出といった生産上の問題が発生した一方で、新製品のヒットや大きな賞の受賞、新工場の立ち上げといった嬉しいニュースも数多くありました。
こうした出来事を振り返る中で、特に新しい視点で捉えるべきテーマは何かをノートを見ながら考えてみました。その結果、思い浮かんだのが「人材確保の難しさ」と、そこから派生する「人材育成戦略の変化」についてです。
少し前までは、人材の流動性が低く、比較的容易に採用ができていました。しかし最近では、退職者が増える一方で求人への応募者が減少し、人材の補充が難しくなっています。このような状況を背景に、スペシャリストとジェネラリストという観点から人材のあり方を考えてみたいと思います。
まず、スペシャリストについてです。ある工程を特定の人しかできない状況では、その人が突然辞めてしまった場合に大きな混乱が生じます。このような状況では、その人が会社にとって欠かせないスペシャリストであったことが明らかです。しかし、急遽代わりの人材を調達するのは難しい上、たとえ調達できたとしても、即座に戦力として活躍できるとは限りません。
一方で、ジェネラリストも重要です。一つひとつのスキルはスペシャリストにはかなわなくても、その会社のことを深く理解し、幅広い業務に対応できる人材は、こうしたリスクを軽減します。特定の人が担っている業務が突然停滞するリスクを回避するためには、今のうちに各工程を担える人材とそのスキルレベルを把握し、潜在的な問題を可視化しておく必要があります。
日本には「二兎を追う者は一兎をも得ず」や「二足のわらじ」といった、スペシャリストを評価することわざがあります。一方で、海外では才能を幅広く発揮できる人材が評価される傾向があります。以前は「器用貧乏」と見られていたものが、今では「才色兼備」として強みと捉えられるようになっています。言葉の位置づけも時代とともに変化しているのです。
自動車部品製造のF社の現場には大きな多能工化ボードがあり、そこには全員が同僚の仕事を習得することや、他部署の業務を取り込むなど、1年間に更に2つの仕事ができるようになるという目標が示されています。その内容と達成時期も具体的に記されています。このように近年ではジェネラリストの需要を感じる場面も増えてきている様に感じます。
スペシャリストとジェネラリストのどちらも必要であり、その時々の状況に応じて、そのバランスを考えることがこれからの課題となるでしょう。どちらの人材も必要だと感じた時にすぐに用意できるものではありません。さまざまな仕事を任せている社員が一つのことをやったらスペシャリストに生まれ変わることもありますし、その逆も同様にあると思います。
人材の育成は会社の成長と安定に直結する重要な戦略です。今から準備を進め、未来に備える姿勢が求められています。改めて、これからのあるべき人材戦略を構築して参りましょう!
日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫