8月になりました。
今回は、熱中症の未然防止対策として、個人判断から、数値に基づいた会社判断の休憩基準を作ったA社のカイゼンをご紹介いたします。
毎日とても暑い日が続いています。私が子供の頃、小学校の開放プールという時間がありました。夏休み中、泳ぎたくてたまらないのですが、(気温+水温)が50℃を下回った場合は、寒いので開放プールは中止となりました。夏休み中であっても中止の日が何日かあり、がっかりして帰ってきた記憶があります。しかし、朝から気温が30℃を超える日が珍しくない現在では、そんな日はまずないでしょう。絵日記の宿題で日中の気温を測っていましたが、28℃とか32℃といった30℃前後の数値が普通でした。今では、工場や街中で体感する夏の日中の気温は明らかに上がっており、以前とは全く違う環境になっています。これまでなら、工場内に塩飴を置いて塩分補給を促し、休憩時には必ず水を飲むように指示することで対応できていましたが、とてもそれでは間に合わない状況が起きそうです。
多くの会社では水分補給を自己判断で自由に取るようにし、異常を感じたらすぐに休むように指示していますが、従業員には頑張り屋さんが多く、無理をしてしまう傾向があります。皆が頑張っているのに自分一人が休むわけにはいかない...といった気持ちは、私も理解できます。喉が渇く前に水を飲めと言われていますが、一方で飲み過ぎてもいけないと言われてしまうと、結局は個人の判断となってしまい、問題解決になりません。一旦気分が悪くなってしまうと回復には時間がかかり大変ですから、気分が悪くなる前に休んで問題を起こさない未然防止型の対応が必要です。
ところが、熱中症は気温と湿度の両方が関係する複雑な条件下で起こりやすいとされており、事前の対応を自己判断できるような単純なものではありません。熱中症警戒アラート発令には「暑さ指数:WBGT(湿球黒球温度)」という湿度計と普通の温度計と黒球温度計という3つの計測器を使って計算する複雑な温度指数が使われています。気温が高くても湿度が低ければ熱中症は起きにくいのですが、気温が低くても湿度が高いと熱中症が起きやすいという複雑なバランスがあります。普通の温度計と湿度計を使った簡易早見表もありますが、これを毎回見て判断するのは現実的ではなく、個人の判断は難しいと思います。
(早見表:https://www.town.matsukawa.lg.jp/material/files/group/5/WBGT.pdf)
先日機械加工のA社の現場で、各工程に黒い球体が付いた見慣れない計測器を見かけました。何を計測しているのか尋ねたところ、「暑さ指数」を測っているとのことでした。現場は大型の溶接機や切断機のような熱を発する設備が多く、熱中症リスクが高い職場です。そこで、A社では暑さ指数を職場ごとに測定し、その情報に基づいて、その職場の休憩頻度や給水方法を決めて実行するようにしていました。職場の労働強度に合わせて、指標数値ごとに「30分に1回、5分の休憩を取る」といった職場ごとのルールを定めています。この湿球黒球温度計は4年前では4万円くらいしましたが、今は数千円で入手できます。熱中症警戒アラートは、この湿球黒球温度が25度以上28度未満で警戒、28度以上31度未満で厳重警戒、31度以上で危険となります。
一般の状況でも熱中症警戒アラートが頻繁に発令される現在、生産現場の状況は更に危険である可能性があります。このように状況を数値化し、その数値に基づいて給水や休憩実行の具体的なルールを決めることは、今の時代に必要なことだと思います。
事故が起きる直前までは大丈夫と思っていても、実際に事故が起きてしまえば取り返しがつかないことになります。未然防止の考え方で、積極的に休憩を取り、結果として最高のパフォーマンスを発揮することにチャレンジしましょう!
日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫