プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第80回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その1)丸投げ厳禁、最初がとても大事です。

前回は「信頼される企業のために職場教育のより一層の充実を」と題して職場教育について述べました。教育や研修などはすぐにはその成果が見えません。経営トップの意思(方針)によって進めることになります。二回の番外編で筆者の体験に基づいて、その着眼点は本来業務の周辺にある業務の知識獲得であることを説明しました。
今回から社内プロジェクトについての連載です。プロジェクトも職場教育のひとつのかたちとして活用されています。とくに、経営者が特定の人材を指名して実施することもよくあります。このような場合を含め、プロジェクトが失敗しないための注意点などを述べていきます。

ここで、プロジェクトが失敗しないためにと書きました。なぜ「プロジェクトが成功するために」と書かなかったのでしょうか。理由を説明します。

【1】プロジェクトはなぜ失敗するのか
プロジェクトの定義は次のようになっています。

定義:
特別な目的のために、集められたメンバーで期間内に実行するまとまった仕事


プロジェクトには、定常的な業務とは明らかに異なる点が三つあります。ひとつは「いつ始めていつ終わらせるのか」、期間や納期が決まっていることです。次には、そのプロジェクトだけの特別な目的(または企画)があることです。三つ目はメンバー構成です。かねての仕事とは異なる固有の組み合わせのチームで対応することになります。
従って、特別な目的のために決められた期間で固有のチームによって終わらせる仕事。これがプロジェクトということになります。プロジェクトの難しさが理解してもらえるのではないでしょうか。前述した定義に対して、次のような記述になります

定義2:
定常業務ではなく、
いつもと異なるチームメンバーで実行する決められた納期がある仕事


【2】初めての仕事は誰がやっても難しい
入社3年目ごろの筆者の体験です。仕事になれてくるに従い、仕事の種類と量(案件数)が増えてきました。筆者は鋳造工場で金属を溶解するプロセスを担当していました。そのときの設備投資案件として、増産対応、難作業の機械化、職場環境改善などをかかえていました。当時はとくに設備投資が集中した時期でもありました。結果として、日常業務の他にこれらをすべてこなすことは無理でした。難作業の機械化というこれまで課内で誰も取り組んだことの無い案件が、手つかずのまま残りました。時間をかけてじっくり取り組めば何とかなったのかもしれませんが、そういう状況ではなく全く手が出ませんでした。課全体が猛烈に忙しく、先輩や上司に相談する雰囲気はありませんでした。結局、後回しにし続けて時間ギレになりました。経験したことの無い初めての仕事をひとりで進めることは難しい、これを実感しました。

【3】任せたプロジェクトが失敗しないために
前述した筆者の体験で手つかずのまま残った案件は、事情はどうあれいわゆる丸投げだったと言えます。本稿の初めに述べたように経営者が特定の人材を指名して実施するプロジェクトがあります。もちろん、目的はプロジェクトを任せることで人材育成の良い機会にすることです。これをきっかけに職業人として一段とレベルアップしてもらいたいという経営者の思いがあります。
この場合、任せるプロジェクトとしては誰でもやれるようなものでは意味がありません。経営のあるいは部門の課題として未着手で難度の高いものが選ばれます。例えば設計部門の事例です。設計チームの生産性が著しく低下している問題があり、これの解決策を求めるプロジェクトなどが考えられます。経営者としては、顧客による仕様追加や設計変更があまりにも頻繁に発生している。これが主な原因であり、その対処策が解決の糸口になるのではないかと想定しているとしましょう。
このような状況で、経営者の現状認識に基づいて特定の人材(指名者)にプロジェクトを任せる。同時に、指名者に対して経営者の構想や想定原因などを丁寧に説明する。そして、それらを指名者に共有してもらう。こういう段取りを踏めば、プロジェクトは失敗ではなく成功に近づくことでしょう。

【4】丸投げは厳禁
前項で述べたのはきちんと段取りを踏むことでした。これとは異なり、次のような任せ方は簡単過ぎて丁寧さが足りません。

「設計チームの生産性が著しく低下している。これは大問題だと思う。君はこれからの設計チームを背負っていく優れた人材だ。プロジェクトを立ち上げて解決して欲しい。以上、よろしく」

経営者の目的は理解できるとしても、これでは何をやればよいかが漠然としています。指名者がかねてから問題意識をもっていたら、プロジェクトを任せられても迷わず遂行できるでしょう。それでも、プロジェクトの結果が経営者の意図に合致するかは不明のままです。従って、このような任せ方は明らかに丸投げと言えます。

経営者自身が、任せるプロジェクトについて何らかの強い思いや目的がある。また、プロジェクトによって得られる最終的な成果物の妥当性を自ら判定できる。このような条件がそろわない限り、どのようなプロジェクトも失敗します。人材育成を同時進行させるプロジェクトの場合も全く同じであり、丸投げは厳禁となります。