プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第75回

プロジェクトマネジメントを考える
 ~プロジェクトやマネジメントを使いこなす(その1)

前回まで7回にわたって「設計リードタイム短縮は設計改革への道」を述べてきました。
今回からプロジェクトマネジメントについて考えていきます。そもそも「プロジェクト」は一般によく知られています。2000年からNHKのドキュメンタリー番組で放映されたプロジェクトXが話題を呼びました。これでプロジェクトという言葉はわが国の社会に大きく普及した感じがします。この番組では実現できそうにない商品をどうやって開発したか、当事者たちの挑戦と成功への道すじを描いたものでした。プロジェクトとはいつもとは異なるものを達成するための挑戦である、こういう一般的な理解が進みました。つまり、プロジェクトは難しい問題を解決したり、困難な課題を達成するための高度に専門的なやり方という理解です。筆者は、それとは別の側面をお伝えしたいと考えています。もっと気軽に身近なことのためにプロジェクトが使える、そのヒントなどを述べることにします。まずは、筆者の体験から始めます。

【1】非常勤講師を務める
先輩のお薦めで理系専門の大学で非常勤講師を務めることになりました。担当する科目は技術者倫理、工学部3年生向けの必修科目です。筆者は、プロジェクトマネジメント研修で当時も現在も講師を務めています。講師経験そのものには不安は無くても、大学での必修科目で技術者倫理という未体験の領域であることに不安がありました。さっそく技術者倫理について、当学部での目的や市販の参考書を調べることにしました・・。

講師を引き受けるきっかけは、先輩にプロジェクトマネジメントについて説明する機会があったことです。工学部の学生は卒業したら社内でプロジェクトを引き受けることがある。学生のうちに学んでおくことは意味があるのではと説明しました。講師のお薦めが舞い込んできたのは、それから1年以上経っていました。「プロジェクトマネジメントの科目ではないが、せっかくの機会だからやってみないか」というものでした。「大学の先生たちは企業活動の経験の無い方が多い。そこで、企業現場の経験者からその雰囲気を学生に伝えたい。これは学内でつねに要望されている」との説明も説得力がありました。それで「技術者倫理」という未体験領域に踏み込むことにしました。結局、2012年から2017年までの6年間務めることになりました。

未体験領域で不安はあっても「実際の企業現場の雰囲気を伝える」、ここに魅かれて引き受けることにしました。

【2】教材はすべて自作することに
技術者倫理について、市販の参考書を調べました。結局、市販の参考書には気に入ったものが見つかりませんでした。その参考書で自分自身が授業を受けることになったら面白いかどうか、そういう感じで調べましたが見つかりませんでした。ただ、参考書を調べたことは大きな副産物がありました。
どういう事例がとり上げられているか、過去の事例が技術者倫理の側面からどうアプローチするかが大いに参考になりました。例えばスペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故(1986年)、フォード社ピント事件(1972年)などです。この延長上で、筆者自身が気になっているわが国にある一般的な安全感覚の緩さ、無頓着さなども実例に基づき技術者の果たすべき役割として授業でとり上げることができました。

既存の参考書を使わず、自作の教材を使ったのは学生のみでなく講師である筆者自身も、技術者倫理を身近に考えるきっかけにすることができました。

【3】授業が始まって思いがけない難問に直面する
教材も準備でき、初めての教室に行きました。120名ほどの座席がある階段教室です。受講登録は100名程度でしたから十分な会場です。講師用のマイク、プロジェクターとスクリーンなども完備しています。
早速、授業を始めました。90分の授業で最初の15分くらいは全員神妙に聞いています。ところが、それを過ぎると、居眠りやひそひそ話しがあちこちで始まりました。筆者の担当する企業内研修や公開セミナーではひそひそ話しは皆無ですから、まずこれに驚きました。授業に集中したい学生にとってひそひそ話しは迷惑ですから、注意しました。しばらくは効き目がありますが、まもなくぶり返します。
そこで当日の題材とは少し離れる話題に変えてみました。いわゆる企業現場の実体験を話すのです。例えば、仕事で失敗したときユーザーにどうお詫びするか、などです。こういう話題になると、ひそひそ話しはぴたりと終息し学生が真剣なことが目に見えてわかりました。この手の話題はいくつか準備しましたが、こればかりでは授業にならないことは明らかです。学科の担当教授にも相談しましたが、良い案というか筆者にとって有効な対処策はありませんでした。講座の趣旨に合い、魅力的な授業にするしかない。筆者のやり方はそうなっていないと考えざるをえませんでした。

学生の居眠りやひそひそ話しにずっと手を焼きました。最初の学期は全く打つ手がありませんでしたが、次の学期で挽回策により問題を解決することができました。(次回に続く)