プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第190回

プロジェクトチームの休憩室(38)

連載の前回では、世界に通じる日本のマンガを紹介しました。東京の秋葉原はマンガを初めとしてアニメ、ゲームなどの関連グッズの専門店が密集する世界的に有名な中心街となっています。このようにマンガは今やわが国独自の文化として欧米諸国に普及しています。もはや普及という域をこえてフランスなどでは子供のときからマンガで育った世代が50歳代に達しているとテレビで紹介されていました。自国フランス文化の独自性にこだわるこの国においても、日本のマンガはこだわりなくかつきわめて好意的に受け入れられているようです。

つまり、日本マンガはこれまでの文化障壁を苦も無く乗り越えています。わが国の家電製品や自動車などの工業製品は通商摩擦を引き起こした経緯もありました。ところが、マンガについてはそのような苦情はまるで無いのです。各国で率直に受け入れられているということは、もっともな理由があるのでしょう。今回も、マンガを含む我われの社会や組織にある文化について述べることにします。


日本のマンガの特長
率直な結論を言えば欧米諸国にこれまで存在しなかったような取り扱う領域や題材などの幅広さや多様性です。結果として、他国には無い高い独自性があることです。従来は、わが国においても海外のマンガやアニメは米国発のものが多数派でありそれなりに人気を得て流通していました。しかし、これらは主として幼児や子供向けのものでした。大人向けもありましたが、お決まりのワンパターンでは幅広い年齢層に受け入れられるものではありませんでした。

これらに対して、わが国のマンガはそれぞれのストーリーが興味深くて面白く、かつ丁寧な絵画的あるいは映像的な作りこみがあります。これは従来の欧米マンガには全く無かったことでした。つまり、マンガの世界に革新をもたらしたのです。現代ではどの国においても日本マンガはその国の文化の一角を形成しています。ということは、わが国のマンガはその国の文化に大きな影響力をもつようになったと言えるでしょう。わが国の文化がこのような影響をもつようになったのは過去にも例がありました。


もてはやされたジャポニズム
1867年開催のパリ万国博覧会(国際博覧会)について、開催国フランスの呼びかけに応じて徳川幕府は参加を決めました。次のような様々なものが出品・展示されました。浮世絵などの美術品、磁器・漆器などの工芸品、お茶や絹織物などが紹介されました。日本コーナーでは3名の女性が(当然のことながら和装で)ガイドを務めたということですから これもまた、特別な評判を得たようです。それだけでなく、日本についての特別な興味・関心は「ジャポニズム」という日本愛好の潮流が生まれることになりました。これはパリを拠点とする美術商、コレクター、批評家や芸術家たちによるもので、ヨーロッパの芸術家に大きな影響を与えたと言われています。パリ万博が開催された19世紀後半、江戸時代末期から明治時代にかけて欧州では日本の美術や工芸が大いにもてはやされました。このような日本文化を愛好する流れはジャポニズムとして知られています(情報参照先:ウイキペディア)。

しかしながら、欧州でのわが国マンガの普及・浸透は当時のジャポニズムをはるかに凌駕する大きな流れになっているように思います。そのひとつの要素としてわが国には他国にある大きな制約条件から自由なことがあると思われます。


さらにわが国の大きな特長は
欧米諸国のような一神教の世界には無いわが国独自の宗教観があります。筆者は大多数の日本人は特定の宗教にこだわることなく、主に二つのイベント(お宮参り、お盆)を大切にしているように思われます。年始の神社参拝やお盆の時期の混雑はこれらを反映しています。さらに言えば、クリスマス、除夜の鐘、新年の参拝などの行事が連続する年末から年始はわが国では当たり前のこと、常識として定着しています。お盆の時期の交通混雑も同様ですが、信教の自由などという定義では表現できないわが国独自の信仰心の表現があります。

当然のことながらわが国のマンガにはこのような独自の宗教観が基本になっています。作者が日本人であればごく自然にそのような表現になるのは当然のことなのでしょう。訪日の外国人観光客から「観光客で大混雑していても、日本にいると自分の国にいるよりもほっとする」という感想をテレビのニュースで聞いたことがあります。筆者としてこれは一神教ではないわが国独自の宗教観が作り出した雰囲気なのかなと思っています。


ほっとする日本
アニメやマンガはサブカルチャーと呼ばれることがあります。サブですから主流ではないという意味なのでしょう。本連載の前回で述べましたが、職場のマンガ週刊誌愛好グループで毎週の購入担当をしていた筆者としては「サブ」は不要と思っています。学生時代は著名なマンガ週刊誌三誌のアルファベット頭文字がMKSとなるので「必須の教養として獲得すべきMKS単位」と呼んでいました。就職先の職場でも愛好グループがあったほどですから、マンガはサブなどという位置づけではなく常識として定着していました。「日本にいるとほっとする」という外国人観光客の感想から、彼らの国では「マンガは大人の読むものでは無い」という雰囲気を感じます。とはいえ、欧州などでのマンガ人気は拡大一途のようです。秋葉原はサブカルチャーのメッカと言われて外国人観光客でにぎわっています。マンガが海外現地で作り出せない限り、秋葉原のメッカとしての地位は揺るがないのでしょう。

(次回に続きます)