プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第19回

ボトルネックの対処策を見える化する

前回は、ボトルネックに対処するやり方として、制約理論(TOC)による「改善の5ステップ」を紹介しました。製造の現場では、とくにこのようなやり方に熟知しなくても当然のことのようにボトルネックが解消されています。
ところが、開発・設計などを含むホワイトカラーの職場では、さまざまなボトルネックが散在しており生産性向上の障害になっています。前回の事例のようにキーパースンがボトルネックになっている場合、プロジェクトのスケジュールを使うと対処策の見える化ができます。今回はこれを紹介するとともに、問題状況に直面したときいきなり具体的な対処策を考えるのではなく、まず問題の本質を理解することから始めるやり方を紹介します。

【1】キーパースンがボトルネックになっている場合
前回と同じ事例です。ある設計チームでベテランのAさんが「検図」をひとりで担当していました。設計技術者は全員Aさんの承認を受けないと次の段階である生産手配ができません。Aさんは設計業務以外にもいくつか他部門の業務をかかえていたので多忙なため、技術者が相談できる時間はかなり限られていました。設計チームの技術者は各自のプロジェクトの納期が読めないので、困った状況になっていました。この状況についてスケジュールを使って図1に示します。
 
図1 設計チームの困った状況 『手配納期を次工程に確約できない』

【2】ボトルネックであるAさんの時間を確保する
ボトルネックであるAさんの能力を最大限に活用することが必須となります。設計チーム以外の他部門業務の短縮や削減を図ることによって、設計チームのための時間を確保します。例えば毎週決まった時間帯を指定して、設計チームの全員にスケジュール(日時と時間の長さ)を約束します。これで、設計チームボトルネック解消の第一歩が踏み出されることになります。

【3】約束の時間帯に合わせて各自のスケジュールをつくる
検図の時間帯が設定されました。技術者は、そこに焦点をあわせて自分たちのスケジュールをつくることになります。図2の説明では、3名の技術者が順序立ててAさんの時間を使うことになります。それぞれに念のため検図作業にバッファーをつけてもよいでしょう。バッファーがあれば、予定時間より延びたとしても次の技術者の開始予定時間をずらす必要がありません。各自のスケジュールを列記することで、ボトルネックが見える化できました。技術者は安心して、次工程に納期を確約できるようになりました。

図2 スケジュールのボトルネックが見える化できれば納期を確約できる


【4】問題の本質を理解する
問題状況に直面したとき、何はともあれ具体的な対処策を考えます。よくある傾向ですが、このやり方でうまくいけばよいのですが、場当たり的な対処策に過ぎなかったり、場合によると全くの的ハズレ、ということもあります。そもそも、適切な対処策を考えつかないことさえあります。
こういう場合には問題の本質を理解することが欠かせません。ボトルネックという観点は、問題状況の本質を理解するやり方のひとつです。図3で説明します。問題状況でいきなり具体的な対処策を求めるのは、Pの方向に進むやり方です。問題状況を「プロセスのボトルネックが放置されている」と、いったん一般化して(抽象化して)とらえるようにします。図ではQの方向です。そうすると今回の事例ではR→Sの方向に進みました。 このように抽象度をひとつ上げるやり方は、多様な対処策を考えることができます。また、問題状況に対する適用範囲も広がります。「検図担当のAさんが・・」と言えば営業部門の方々には「私たちには関係な無いね」ということになりますが「プロセスのボトルネック」ということなら何らか共通の興味や関心があることでしょう。成功した問題解決策について、社内の横展開にもつながります。

図3 問題の本質を理解する


図3は「開発現場で役立つ品質工学の考え方」(2010年 日本規格協会)から、その枠組みを引用して作成しました。同書は筆者が尊敬する品質工学の専門家である長谷部光雄氏の著作のひとつです。