プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第184回

プロジェクトチームの休憩室(32)

連載の前回は、筆者の体験から職場の先輩はクルマ通勤において模範ドライバーであるだけでなくじつに的確な判断とムダのない運転操作だったことを紹介しました。これは業務の進め方においても同様でした。さらには部下指導においても丁寧でさりげない配慮も行き届いていました。彼はまた上司に対する仕事上の要望についても、そのやり方が率直で学ぶことが多くありました。上司への要望ではなく苦言に近いものもあったはずですが、そのような場を目にすることはありませんでした。たぶん、その機会はそばに誰もいないところでの対話になったのでしょう。とにかく「さりげなく」が印象に残っています。今回もこのような話題の続きとして、筆者の体験を述べることにします。


社内講演会でのハプニング
あるとき工場内で関係する従業員を対象にした講演会が開催されました。講師は安全衛生管理課のA課長。彼は当工場と同じ県内にあるZ工場で安全衛生の面で大きな成果を出した方でした。当工場へその知見を広めかつ実践活動を支援すべく要請されての着任と聞いていました。つまり、鳴り物入りの人事だったわけです。筆者の担当していた製造部門は工場内でも労働災害の多いほうでした。担当者としても勉強になるだろうと大いに期待してその講演会に臨みました。参加者はざっと100名を超えるほどでした。関係する部門の管理職や担当者はほぼ全員が出席したようでした。業務終了後から1時間半ほどの時間が設定されていました。

居眠りは出ていけ
講演半ばで講師による突然の怒声が会場に響き渡りました。聴衆には誰が居眠りしているかは、隣に着席でもしていない限り気づきません。講師は演壇にいますからよく見えるのですね。怒鳴られた方はお詫びをしてすごすごと退場しました。筆者は居眠りも無理ないな~と感じました。つまり、講演はその流れが円滑ではなく、訴求ポイントがよくわからないことが多々ありました。おまけに配付資料もありませんでした。これが現代なら、スクリーンにパワーポイントのスライドを投影し、かつ手元に配付資料があったりします。当時は講師の一方的なプレゼンだけでした。よほど興味深いシナリオに基づき、聞きやすい平易な言葉遣いで訴求しない限り、業務終業後という悪条件下での居眠りは避けられないことでした。

ちなみに筆者は講師という仕事でこのような場面をよく体験します。まる1日について言えば、午前中はこのようなことはまずありません。難所は昼食後の1時間です。食後はふつうに誰でも眠くなります。経験ある講師はその対応策をいくつか備えています。

昼食後の講演での対応策
次のようなものがあります。筆者は状況に応じて使い分けています。

①チームごとに全体に向けて発表してもらう。
午前中に課題を出しておきチームごとにその対策案や解決案を討議しておいてもらう。
午前中にそのような時間がとれないときは、午後のはじめの1時間ほどを準備時間として割き、その後発表してもらう。

②ゲームをおこなう
ビジネスゲームとして短時間(30分ほど)でできるものから、本質的な意味のある長時間(90分)のものも準備している。

③個人別にプレゼンしてもらう
テーマは所属企業での私の仕事、私の故郷、私の住む町などにしている。原則として3分間だがだいたい5分ほどになる。本人のプレゼンのあとにメンバーからその感想を述べてもらう。
講師もプレゼンターに対してお礼をしっかりコメントする。全体で1件当たりの所要時間は10分である。午後の最初にこのような時間をとるが、全員分はできない。準備は全員やってもらうが本番はくじ引きで人数を5~6名に絞って1時間ほどで終了するようにしている。

ここで終了となりますが「私もプレゼンしたいという方はありませんか」と問いかけるようにしています。たまに応募があるので1名に限ってやってもらっています。

さすがに副社長はレベルが違うと感じたこと
開発部門に所属しているとき、部門トップである副社長との懇談会に参加したことがありました。そもそもの趣旨は副社長として異なる部門から着任したので部門のすべての人たちと対話したいが人数的に無理。管理職に絞ればできるということで始まったと聞きました。対象者を部課長に絞っても、ほぼ1年かかることになりました。1回で管理職は約20名、時間は2時間となりました。何を話題にしても良いということでしたから、筆者はかねて気になっていたこと、「責任」について質問しました。従業員として管理職としての責任とはどういうものかを聞いてみました。

責任について驚きの回答
開口一番の回答に驚きました。「君たちに責任は無い!」、例えば米国市場でリコールを起こしたとする。メーカーの責任として莫大な補償が発生する。「それを君たちが負担できるか?できないだろう!」 つまり、責任とは補償の負担を伴うゆえに「補償できない者に責任はとれない」、「責任のとれないものに責任は存在しない」、このような解説でした。

出席者すべてが副社長の解説に「すべてではないにしても責任はあると思って仕事をしてきたつもり・・」と釈然としない雰囲気でした。ここで副社長からさらに畳みかけるようなコメントがありました。「責任は会社がとる。君たちには『責任感のある仕事をしてほしい』」。訴訟大国である米国なら「責任感とは何だ」という定義やその範囲などが論議になり紛糾するのでしょうが、この場では副社長の回答で全員納得することになりました。副社長のこのような考えは日本的な経営に基づくものであり、現在もわが国の企業に存在し定着していると感じています。

(次回に続きます)