プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第182回

プロジェクトチームの休憩室(30)

連載の前回は、海外のタクシーや居酒屋などでサービスにはチップが常識になっていることを述べました。このような海外の常識を体験するとき、わが国で生活している我われにとってそれは慣れないことでもあり、たんに煩わしいことのひとつになります。それが、サービスの対価に必ず付属するものとして日常の我われの生活にもだんだんと迫ってくることはわが国の美風を少しずつ侵食していくことになると述べました。今回もこの続きとして筆者の見聞や体験を述べることにします。


外国に渡航しそこでタクシーを利用するとき
到着した空港から市街地に向かうとき、バスや電車が利用できるときは何の問題もありません。筆者が出張でサンアントニオ市(米国テキサス州)に出かけたときのことです。空港から出てタクシー乗り場に行くと、大きな看板があってそこに「市街地までタクシーで○○ドル」と、でかでかと表示されていました。明らかに当地が初めての旅行者向けの案内でした。20年ほど前のことですからタクシー料金がいくらだったかは忘れましたが、タクシー料金を安心して支払ったことを覚えています。同市は国内の保養地として、現役を引退した方々が多く居住している米国内でも有名な都市と聞きました。空港出口の大きな看板の表示は、そういう都市として必須のものだったのかもしれません。

羽田や成田はきわめてハイレベル
わが国の国際空港である羽田や成田については市街地へのアクセスは必ずしもタクシーに頼らなくても多様な交通機関が整備されています。旅行者に対して複数の選択肢を提供していますが、これはじつに素晴らしいことです。その選択肢としてまず鉄道があります。これについても複数の企業による異なる鉄道路線があります。羽田においてはモノレールという首都環状線に直結する路線もあります。そして、行先別に多くの直行バスがあります。とくに直行バスについては、スーツケースなどの大きな荷物は係員が取り扱いを手伝ってくれます。乗車時はもちろん降車時にも手伝ってくれます。もちろん、当たり前のことですがここでもチップ不要です。運賃の明確さとこのお手伝いサービスは、わが国へ入国する外国人観光客にとって安心できるサービスと感じる第一歩となっているのではないでしょうか。

筆者は仕事や観光で欧米のいくつかの空港を利用しましたが、羽田や成田を超えるようなサービスレベルの空港は体験できませんでした(あくまで筆者の限られた体験に基づくものです)。例えば、自動チェックイン機の操作がうまくいかなくても係員がすぐ手伝ってくれます。空港バスで荷物を預けるとき必ず引き換え証を発行することなども、わが国の行き届いた丁寧なサービスの一端です。

残念なわが国のタクシー
大きなスーツケースをかかえているとき、ドライバーがまるで手伝ってくれないことがあります。乗車時にトランクルームが整理されているのはよいのですが、ぐずぐずしていて手伝わないのです。降車時は料金支払いがあるので何かと忙しそうにして、これまた手伝ってくれません。きちんとやってくれるタクシーもありますが、筆者の体験ではこのようなお手伝い率はほぼ半分といった感じです。

筆者が好きなスペインではこのような「手伝い無し」タクシーの経験をしたことはまずありません。ただ、いくらかのチップは必要です。小さなクルマが多いので、乗車時にスーツケースなどを積み込むときも手慣れたやり方でスピーディにやっています。スペインではほとんどすべてのタクシーは個人タクシーと聞きました。わが国では個人タクシーよりも企業が経営する会社タクシーの方が一般的です。では、仮にわが国でも個人タクシーを増やせば「残念なタクシー」は減るかと言えばかなり疑問です。つまり、わが国とスペインのタクシー文化または常識の差異でそのようになっていると思うからです。

模範タクシー
韓国ソウルに出かけたときのことです。現地ガイドから、ひとりでタクシーを利用するときは「模範タクシー」を利用するようにとのアドバイスがありました。料金は一般のタクシーよりも割高だが、高級感のある黒色のクルマを使っていて料金が明朗会計であるとの説明がありました。そのときの出張では、ひとりでタクシーを利用する機会はありませんでしたが、走行中の模範タクシーをしばしば見かけました。それにしても「模範」という表現がじつに面白いと同行した同僚と会話が弾みました。次はタクシーとは別のわが国の話題です。とても「模範」とは言えないケースです。

模範知事
わが国の最近のニュースとして、ある県知事の職員に対するパワハラが繰り返し伝えられています。この逆のかたちとして「模範知事」などがニュース用語として登場しても良さそうです。今回の場合、パワハラだけではなく品性を疑う行為の数々はこれまでほとんど聞いたことが無いものばかりです。聞いたことが無いから、これまで存在しなかったということにはなりません。とはいえ、今回のパワハラ知事と比べればわが国の大多数の知事の皆さまは健全な方々であるように見えます。筆者から観ると、この事件はその陰湿さとは逆にわが国地方自治体首長の常識的なレベルの健全性を示している・・。と言えば褒めすぎになるでしょうか。

ビジネスでの模範の有無
そもそもわが国社会ではチップの習慣はありません。初めて訪日する外国人観光客の驚きのひとつはチップが無いことだそうです。そして、チップが無いにも関わらず応対の丁寧さが外国人観光客の高い評価につながっているのでしょう。観光業界に限らず、日本人全体は外国人に対しては親切と思われます。ところでチップは存在しない一般的なビジネスにおいて接客の場面では模範という考え方は大いに役立つのではないでしょうか。筆者自身が顧客として体験したことです。ある業界でのA社とB社の営業店での来客応接についてあまりの差異に驚いたことがあります。

(次回に続きます)