プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第180回

プロジェクトチームの休憩室(28)

連載の前回は、海外で見聞したごみ収集やタクシーのストライキについて書きました。普通の民主国家であれば、ストライキは労働者の基本的な権利として認められています。ところが、わが国ではこのような労働者の基本的な権利が行使されることはほぼ絶えています。それで、久しく体験も見聞もしたことがありませんでした。海外で体験することになると、不便さを感じる前にわが国社会との大きなギャップを感じることになりました。ストライキは労使の交渉が行き詰まったときに労働組合側の切り札的なものとして行使されます。わが国では労使交渉が行き詰まることが無くなったということでしょうか。それとも、労使ともに物分かりが良くなったということなのでしょうか。ストライキがほぼ無くなったことは、わが国社会の成熟度を示すものと前回の本欄で書きましたが、筆者は成熟度という表現については何かしらの違和感があります。それはともかく、今回も国内外でのタクシー見聞についての続きです。


タクシー専用車
スーツケースなどの大きな荷物をかかえてのタクシー利用のとき、ドライバーが手伝ってくれると大いに助かります。クルマのトランクは重くてかさばるものを入れるときはけっこうたいへんです。わが国でも、このような難点を解消したタクシー専用車が目につくようになりました。専用車としてコンパクトな外形ながら、車いすなども便利に搭載できるようになりました。またLPガスを燃料にしたハイブリッドシステムを備え高い燃費効率を実現した意欲作です。また、現役のタクシー専用車として長い歴史があるのはロンドンの箱型タクシーですね。これはおとな4人とそのスーツケースがきちんと収納できるようになっていました。外見が黒い塗装色になっているので、このようなタクシーはブラックキャブと呼ばれているそうです。

タクシードライバーの仕事
まず地理がよくわかっていないと困ります。利用する立場で行先はわかっていても、どういうルートが良いのかまではわかりません。とくに初めての都市ではドライバーが地理不案内だと困ってしまいます。妻と二人でバルセロナに旅行したときのことです。市中で流しのタクシーを停めて海岸沿いのレストラン地区へと頼みました。しばらくするとどうも違う道筋を走っていました。そこで妻がこれは違う道ではと伝えました。ドライバーは、はっとしたようで「ごめんなさい、道を間違いました」とのお詫びがありました。そして、そこから料金メーターを停止させて走行を続けました。正しい目的地に着きましたが、料金はいつもの半額くらいでした。ぼんやりしていて道を間違えたお詫びのしるしとして料金を安くしてくれたのです。良心的なドライバーだなとは思いましたが、運転中にぼんやり考え事をしていては困ります。

海外ではチップが常識と言われるが
日本では海外のようなチップは社会の常識にはなっていないので、海外に行くとこれはちょっとした気遣いが必要になります。しかしながらスペインのチップ事情は割合にゆるやかなように感じます。初めてマドリッドに旅行したとき、現地在住30年以上の日本人ガイドAさんにチップについて次のようなことを聞きました。バル、レストランやタクシーなど「サービスが良かった」と感じるときにチップを渡せばよい。額としてはお釣りの小銭があればそれを渡すなど、気に入らないサービスの場合はお釣りの小銭もすべて回収すべきとのことでした。これはなかなか卓見でした。パックツアーで同行する日本人ガイドでもここまで現地事情を熟知している人はいないようでした。一般的なガイドの公式見解はホテル宿泊時の枕銭として1ユーロ程度ということでしたが、Aさんによればこれも基本は不要であり、良いサービスだったと感じたときにチップを置けばよいとのことでした。

良いサービスへの感謝
感謝のしるしとしてのチップなら、これはしっくりします。例えば、スーツケースとともにタクシーを利用する場合があります。日本ではドライバーが全く手伝ってくれないことがあります。重いスーツケースの場合は手伝ってもらいたいのですが、トランクに収め終わったころに手伝うそぶりをするドライバーもたまにあります。こういうサービス姿勢では淘汰されると思われます。スペインでは地方都市も含めスーツケースの取り扱いはドライバーの仕事として定着しているようでした。スペインのタクシーは小さなクルマが多いので、トランクもそれなりの大きさしかありません。そこにスーツケースを丁寧にぴったりと収納するドライバーにはチップをはずみたくなりました。

ホテル宿泊時のチップ
これについて筆者はロシアにマネジメント研修の講師として出張したときのことを思い出します。ある地方都市のホテルで三連泊したときのことです。枕の下に1ユーロ相当のルーブル硬貨を置きました。翌日、戻ってくるとその硬貨はベッド横のデスクに置いてありました。次の日も枕の下に硬貨を置きましたが、夕方にホテルの同じ部屋に入ったらやはり前日と同じようにベッド横のデスクに戻してありました。このホテルの方針としてチップは不要であり、受け取ってはいけないという躾をしているのかなと思いました。それにしてもこのような躾が実行されていることについて、意外な感じがしました。誰も見ていないところでのこのような躾が徹底されているとしたら、マネジメントとしては高いレベルにあります。海外で初めて体験することでした。

音楽大好きなドライバー
スペインのタクシーは、わが国で言えば個人タクシーばかりと述べました。つまり、会社タクシーは無いようでした。従って、ドライバーは運転中に音楽を流していることが多いのです。そして、その音楽は当然のことながらそれぞれのドライバーの好みが反映します。このようなことはわが国ではほとんど見かけません。地方都市のセビリアでタクシーに乗車したときのことです。ずっと音楽をけっこうな音量で流しているのです。初めて聞くものでしたが、不思議に魅かれるものがありました。そこで、乗車中に「この音楽は何か」、買いたいのでアルバム名を教えてほしいと伝えました。するとにっこりして下車するときにメモを書いてくれました。CD・DVDの販売店でそのメモを見せたらすぐに見つかりました。現地の民謡または演歌といった雰囲気でそのスジでは有名な歌手のヒットソングでした。妻が言うにはコテコテの演歌ということでしたが、筆者としては大いに気に入りました。とはいえ、わが国でタクシードライバーが自分の好きな音楽を客が乗車中に流していたら苦情を訴える乗客がいるかもしれません。このへんの事情はいかにもスペインらしくて筆者が大好きなところです。