プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第18回

ボトルネックに対処する

前回は、開発・設計部門で抜群の高品質を達成できた秘密を紹介しました。それは、たまたま負荷(仕事量)が低かったというシンプルな事実でした。これをそのまま実際に適用することはなかなか難しいことです。しかし、「2点見積もりによる実力値スケジュール」を使えば現有メンバーの陣容でチームのパフォーマンスについて30%アップなどを狙うことができるとお伝えしました。つまり、チームのマネジメントを工夫する観点からのカイゼンで望ましい結果が得られる、という結論でした。
今回は、組織に明らかなボトルネックがある場合にどう対処すればよいかを紹介します。

【1】組織にあるボトルネック
「ボトルネック」という言葉はよく知られています。道路交通で故障車があって2車線が1車線に絞られると交通渋滞を引き起こします。故障車が円滑な交通のボトルネックになっています。
製造現場でも同様なことが起こります。図1を見てもらうと、プロセス全体の能力があるところで絞られています。入り口で100入ってきたものが、途中で25に絞られる。従って、出るときは25の能力しかない。入力100なのに、ボトルネックがあるので出力25に落ちてしまうのです。
図1 ボトルネック


製造現場ではこのようなボトルネックが放置されていることは、まずありえないことでしょう。
ところがホワイトカラーの職場では、放置されたままになっていることがしばしば見受けられます。そもそも中小企業には組織構成が部分的に過小人員という基本的な弱点があります。担当者はひとりだけ、ということもあります。その担当者に何かあれば、担当業務は即、機能不全になりかねません。このような過小人員による見過ごせないボトルネックの対処については別の機会にして、今回は次のような開発・設計チームの場合について述べることにします。

【2】キーパースンがボトルネックの場合
ここで、制約理論(TOC:Theory of Constraints)による、ボトルネックに対処するための「改善の5ステップ」を紹介します。
図2 TOC 改善の5ステップ


開発・設計チームの場合、キーパースンがボトルネックになることがあります。改善の5ステップを適用することで、このようなボトルネックを解消する具体的な手順が見えてきます。
さまざまなキーパースンを想定できますが、ここでは「検図」つまり設計図面の最終的なチェックをして出図の承認者となる人をとりあげます。ある設計チームで、ベテランのAさんがひとりでこれを担当していました。設計技術者4名は全員Aさんの承認を受けないと次の段階である生産手配ができません。
ベテランのAさんは設計業務以外にもいくつか他部門の業務をかかえていたのでかなり多忙でした。技術者が相談できる時間はかなり限られており、設計チームは困った状況になっていました。
この問題状況を解決するために、「5つのステップ」を適用してみます。

(1)制約条件を特定する
               制約条件は明らかにAさんです。

(2)制約条件を徹底活用する
                Aさんの能力を最大限に活用する、ということです。設計チーム以外の他部門の業務を削減することなどが該当します。

(3)他のすべてを制約条件に従属させる
4名の技術者はAさんに従属する。つまり、(2)の改善案.によりAさんの空き時間帯を午後に集中して確保することができたとします。この場合、4名の技術者はその時間帯をもれなく有効に利用できるように段取りしておくことが必要となります。

(4)制約条件の能力を向上させる
Aさん本人の能力向上(検図のスピードアップなど)も該当しますが、技術者4名のうち誰かがAさんに準じるスキルを身につけることができたとします。そうするとボトルネック解消の方向になりますから、これもここにあてはまります。

(5)惰性に注意しながら繰り返す
この事例の場合、改善が進むと、検図はもはや設計チームにとってボトルネックではなくなるでしょう。そうすると、あらたな次のボトルネックを特定し解消していくことになります。

ボトルネックを特定する(発見する)ことは、案外に難しいことです。しかし、この観点で組織を見ることは大きな価値があります。カイゼン活動は、ともすれば労力の割りに効果がわずか、ということもあります。活動が的外れにならないためにも、ボトルネックという観点は役立ちます。次回は、今回の事例をプロジェクト風にシンプルに表現するとどうなるかを紹介します。