プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第179回

プロジェクトチームの休憩室(27)

連載の前回は、ごみの分別(ぶんべつ)を話題にしました。同じ漢字表記であっても分別をふんべつと読めば異なる意味になることも述べました。「あの人は分別のあるりっぱな人物だ」と言えば、社会人としてほぼ最上級の評価になるでしょう。そのように使われる分別は、ぶんべつと言うことなら、わが国のごみ収集の幅広さと丁寧さを表現する代名詞であると言ってよいでしょう。ごみ収集は、自治体そして最終的には国家の文明度を測るものさしとして誰にでも理解できるものではないでしょうか。とはいえ、この分野の文明度において高いレベルに到達しそれを維持することは一朝一夕にできるものではありません。今回も前回に続き、優れたそして高度なわが国の社会システムのひとつとしてのごみ収集と、海外スペインで見聞したことなどと対比してみます。


海外で見かけたごみ収集のストライキ
働く人たちのストライキはわが国ではめったに見られなくなりました。海外に旅行するとストライキに遭遇することがあります。スペインの大都市であるバルセロナでごみ収集のストライキを見かけました。ごみを収集しないどころか、集積したごみをわざわざ運んでまき散らすのです。まきちらすのに適したごみを選別していました。まき散らしたごみをまた拾ってそれをまた散らしていました。こういう行動で自分たちの主張を訴えていました。収集がストップしているので、道路のあちこちに大きなごみ袋が積みあがっていました。短い滞在でしたが、その期間中は収集されないままでした。ごみが積みあがっていても、市民はどこ吹く風といった雰囲気でした。年中行事として市民の生活に定着しているようにも見受けられました。ストライキと言えば、公共交通機関であるタクシーのストライキに遭遇したこともありました。

スペイン地方都市でのタクシーのストライキ
パンプローナはスペイン北部の地方都市で、ここには隣国フランスとの国境があります。スペイン巡礼路の旅に出かけたときのことです。パンプローナの鉄道駅から徒歩巡礼のスタート地点までは同行をお願いしたガイドによるとタクシーで30分ほどとのことでした。スタート地点は、国境を越えてフランスにありました。さて、パンプローナ駅に着くと、タクシーは1台も見つかりません!なんとタクシーはストライキの真最中でした。ちなみに、スペインのタクシーは日本で言えば、個人タクシーのみで会社タクシーは無いとのことでした。個人タクシーが一斉にストライキをやっているわけです。スタート地点は巡礼者にとっては有名なところだそうですが、乗り合いバスなどの公共交通機関はありません。我われ海外からの旅行者だけなら途方に暮れるところでしたが、同行ガイドはすぐに代わりの手段を見つけてくれました。この近くに住む民宿オーナーである知人に電話し事情を説明してクルマ1台を手配してくれました。

クルマ乗車中に起きた異変
しばらくしてお願いしたクルマが駅で待つ我われのところに着きました。総勢4名がこのクルマに乗り込みました。やれやれひと安心とほっとしている我われにガイドが思いがけないことを言うのです。「我われは尾行されている」、びっくりしました。スパイ映画に出てくるセリフです。「あのクルマは駅からずっと我われをつけている」、何のために尾行する必要があるのかさっぱりわかりませんでした。しばらくして、彼は道路端に駐車しているパトカーを見つけました。そこで停車して、パトカーのお巡りさんと何か話していました。日本人ガイドはスペイン在住30年をこえるので会話は現地の人たち以上に堪能のようでした。そして、何ごとにつけて巧みで円滑な折衝ができました。

お巡りさんが尾行をやめさせた
彼の言い分を聞いてお巡りさんは尾行してきたクルマのドライバーに何か指示していました。それで、尾行してきたクルマはUターンしてもといた駅方向に走り去りました。ガイドが説明してくれたのは次のようなことでした。あの尾行してきたクルマはタクシーであり、我われの乗車したクルマがタクシーのストライキに反対して営業するいわゆる「スト破り」とカン違いして尾行していた。我われのクルマはタクシーではない。尾行をやめるよう注意してほしい、ということでした。要するに、旅行者がいっぱい乗車している「タクシー」に対する嫌がらせだったわけです。お巡りさんも海外からの旅行者に対する嫌がらせは許さないということで尾行してきたクルマを注意したのでしょう。ガイドが直接に嫌がらせをやめるよう抗議するのでなく、見かけたお巡りさんを活用するやり方がいかにも理にかなっていました。ガイドとして熟達した人物だと思いました。

ストライキは権利として認められている
ごく普通の民主国家であれば、ストライキは労働者の基本的な権利として認められています。スペインのタクシーは日本風に言えば個人タクシーのみのようでした。日本のような会社タクシーであれば、タクシー会社でのストライキも考えられます。しかし、わが国で個人タクシーがまとまってストライキをやることはかなり想像しにくいことです。もっとも、スペインを基準に考えれば、ストライキの権利を行使しない日本のほうが理解できないのかもしれません。わが国でも現在のJR各社が国鉄(国有鉄道)だった時代には、国鉄のストライキは頻繁に、年中行事のようにありました。現在は公共機関でのストライキは全く無くなったようです。労働者にストライキの権利はあるが行使しないのです。

わが国についてごみ収集の幅広さと丁寧さや公共機関でのストライキが全く無いことなどを述べました。これらは、あくまで筆者の体験や感覚に基づいたものですが、日本社会の成熟度を示す一端だろうと考えます。