プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第14回

スケジュール短縮だけに頼らない方策を工夫する

どの企業でも「納期確約」には苦労されています。期日や納期を守ることは、製造業に限らずどのようなビジネスにおいても信頼関係の基本だからです。ところが、このように重要な課題にも関わらず、標準的な仕組みのある企業はきわめて少ないようです。前回は納期確約に必要となる二つの課題のうち、スケジュールの実力値を把握する体系的なやり方をお伝えしました。今回は、もうひとつの課題である「スケジュール短縮だけに頼らない方策を工夫する」、発想の転換を紹介します。
 
納期確約の仕組みに必要となる二つの課題について前回からお伝えしています。
前回:課題1 スケジュールの実力値を把握する
   正攻法です。経験するたびに組織の知的資産は着実に積みあがります。
今回:課題2 スケジュール短縮だけに頼らない方策を工夫する
   発想の転換です。あの手この手、何でもアリと考えてその場を切り抜けます。
 
【1】よくあるやり方、逆線表はなぜ誤りなのか
逆線表はほとんどの組織で知られているやり方ですが、その及ぼす悪影響は全くと言ってよいほど認識されていません。本連載で繰り返し説明してきましたが、まず逆線表とは何かを復習します。これは、指示された納期(締切日、納入日)から逆算してスケジュールをつくるやり方です。

最大の問題点は、とてもできそうもない予感があるのに「もうこのスケジュールでやるしかない」という思い込み、思考停止に陥ることです。スケジュールの実力値が把握できていれば、できそうもない程度が数値でわかりますから(実力値に対して30%短縮が必要など)、思考停止の程度は軽くてすみます。スケジュールの実力値が把握できていない組織では、思考停止が慢性化することになります。思考停止がスケジュールだけでなく他の業務に広がりかねない、筆者はこれが最大の悪影響と考えています。
 
図1 逆線表 納入日から逆算した作業期間を工程別に割りつける

 
【2】立案したスケジュールを短縮する
立案したスケジュールそのものの短縮を検討します。プロジェクトマネジメントの教科書にある標準的なやり方は次の二種となります。
①作業の途中段階で、後続作業を(早めに)開始する
前の作業が完了しないうちに次の作業を開始するのでリスクがあります。リスクをカバーできれば時間短縮に役立ちます。
 
図2 住宅工事の例 内装工事の途中で電気工事を開始する

 
②追加要員を投入して作業を短縮する
追加要員が必要になりますが(コストアップ)、相応の時間を短縮できます。
例として宅配便のドライバーに助手をつけます。二人でやれば集配の時間が短縮できます。
 
いずれのやり方にも裏づけがありますから、時間短縮に役立ちます。その短縮幅で納期を満足できるようであれば、正規の計画として採用できることになります。
 
【3】成果物の変更を考える
立案したスケジュールから離れて、成果物そのものの変更を考えます。顧客の要求はピンポイントではなく幅があるという前提に立ち、発想を転換して考えます。
これは、顧客の当初の要求を変更することになりますから、顧客との折衝が必要になります。受注段階で協議検討できれば問題ありませんが、受注後の折衝となると、約束が違うということになり信頼関係を失う可能性もあります。
 
以下は、「あの手この手、何でもアリと考えてその場を切り抜けるため」と限定的に考えるのがよいでしょう。これまでの筆者の見聞きしたことを含め列挙しておきます。もちろん、受注契約時に双方が合意できれば問題はありません。
 
・分割納入(指定期日に一括ではなく、期間をとって分割納入する)
・オプション品、予備部品などの後納
・機能の段階的リリース(機能別に段階的に納入)
・自社設備の提供や貸与(顧客希望納期までの空白期間の対応として)
・自社の補修用部品在庫の一時流用(若干の追加加工あり)
・ひとまわり容量の大きい既存製品の流用(確認試験の期間が省ける)
 
【4】生産性向上のためのインフラとは
進ちょく会議、リスケジューリング、予期しない仕様の追加や変更、突然の割り込み仕事など等、納期を守るためにはさまざまなストレスがあります。前回は、実力値スケジュールの変動をただひとつの変数で調節でき、しかも逆線表に含む矛盾を解消するやり方を紹介しました。このやり方は生産性向上のためのインフラのひとつに過ぎません。
生産年齢人口の減少、コロナ後の世界への対応などを考えると生産性向上への努力が欠かせません。その観点からは、スケジュール全般の取り組みは立ち遅れが目立ちます。これは、筆者からはインフラ全般の立ち遅れの代表のように見えます。次回は、現有人員のままで生産性向上のために何がやれるか、プロジェクトマネジメントの観点から延べることにします。