新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第8回

日本とヨーロッパのモノづくり現場が抱える共通の課題

● 特に技術系の人材不足があり、しかも現場に出ない
 ヨーロッパは、リーマンショック以来好景気が続いています。最近は完全な人手不足になっています。特に設計・開発の技術者が足りない上に、教える方も教わる方も設計に関する膨大な知識やノウハウの教育も時間が足りなくなり、それらができない状況になっています。昨今の若者たちに見られる技術系の業務に興味が薄いことは、日本も同様の現象です。
 意外にもドイツよりもハンガリーの技術者が、大変不足しています。リーマンショック時に、仕事がなくなり、多くの技術者が国外に出て行ってしまったのです。今さら帰ってくるわけにもいかず、ハンガリーでは技術の伝達が難しい状況になっています。
 現在の若者は、大学を卒業してすぐに画面に向かい、実際を知らないままで設計するようになっています。これは、時間がないからということもありますが、人材不足のために腫れ物に触るように彼らと接しています。
 そのために彼らは甘えん坊になってしまい、現場にも行こうとしないで、デスクでコーヒーを飲みながら設計するのが当たり前になっています。その結果、設計ミスやトラブルが多発しています。またそれらを指摘すると、すぐにすねたり会社を辞めてしまったりするので、ますます強く言えなくなっている悩みを抱えています。それでも上司は、現地現物の精神で彼らを必死で育てようと試みています。
 彼らが嫌々でも現場に出て、自分が設計したものがこんなに大きいものだと初めて知ったとか、長い板がたわむので「材料を間違えたのか?」と叫んだり、材料の凹みに塗料が流れ込み、溝が埋まり製造が手直ししていても、「設計上は均一に塗布されるはずだ」と文句を言う始末です。まるで宇宙人です。
 現物を手に取って、喧々諤々の議論を現場の人たちとやり合うことで、本当の設計ができると考えます。ある企業では、「技術の人は、1日に3回手を洗いなさい」ということを励行されています。油まみれの現物を手にして現場の人たちを話し合い、情報交換をして設計に反映させて、より良いものを作り出そうという精神です。宇宙人を現場に誘い出しましょう。

  ● モノづくりの楽しさを伝えるために、共有の時間をつくる
 モノづくりの楽しさを若者に伝えるためには、やり方を色々とやってみることが必要だと考えます。あの手この手でやり方を変えることで、彼らをもっと現場に出てきてもらい、その現場の要求や問題を設計に反映させることで、品質や機能さらには生産性も向上させることができます。製品の品質やコストは、設計で約7割が決まるデータもあります。やらない手はありません。
 そのやり方として、彼らに現場での仕事は楽しいと感じさせることです。私のやっている方法は、現場でのワークショップ方式です。現場の人たちと一緒に2から3日間一緒に改善するやり方です。形が変わっていく、皆の気持ちもかわっていく、というプロセスを実体験してもらい、カイゼンを共有化することでモノづくりの楽しさが伝わります。
 職場の雰囲氣が良ければ、次第に設計者もコミュニケーションがうまくとれるようになり、設計ミスも手戻し作業も減ると、ますます人間関係も良くなります。そのための一つの方策として、上司が自ら部下に対して、笑顔で相手の名前を呼んで挨拶をする運動です。これは労働災害を未然に防止するやり方から学んだものです。
 ヨーロッパの訪問先で紹介し、励行してもらっています。実際にその効果があり、労働災害が減少しています。そのキャッチフレーズは、「名前を呼び合う職場に災害はなし」というものです。
 日本でもモノづくりの大切さを若者に伝えるために、からくりを使った改善を多くの企業で取り入られています。考えるだけでなく、遊び心もたっぷりのからくりを使ったカイゼンは、もっと多くの工場が導入をされることに大賛成します。材料は段ボールがあればすぐにできます。
 モノづくりの楽しさややりがいをうまく伝える工夫として、就職前に工場に出向き、一緒にモノづくりを体験させる事例があります。マツダ社が名車コスモスポーツなどレストアする取り組みをして、効果を上げています。方法はいくらでもあります。

● 利益をもっと社員に還元して、意欲を出させましょう
 利益だけでなく、規律の低下や勤労意欲の低下もあります。日本では慢性的な残業でお金は入ってくるが、疲れ切ってしまい働く気力も失っているようです。一番やりやすい5S運動、挨拶運動などから会社の雰囲気を変えてみましょう。
 イキイキ、ウキウキ、ワクワクが生まれる環境づくりは上司の役目です。残業をしなくて済む方法もぜひ社員と一緒に一工夫しましょう。生産計画を少しカイゼンするだけでもよくなります。
 利益を内部保留するのではなく、改善提案にも惜しみなく社員に還元しませんか。私の訪問先では、個人提案からチームの実施提案に切り替えてもらっています。チーム意識を高め、さらに多くの報奨金を出してもらうものです。
 実施提案の賞金を、1年目のコストダウンの金額の20%をチームに還元することになりました。なんと最高額は、約2000万円になりました。一人当たり約150万円です。彼らはさらに燃えて改善活動をしています。周囲の人たちも雰囲氣も良くなりました。
 風通しの良い職場や会社にしていくヴィジョンを描き、現場で熱き想いを熱く語ることが必要です。それは必ず返ってきます。社員を輝かせる役割をもっと意識することですが、それには心掛けであり費用は掛かりません。上司の時間と労力をもっと社員に投資して欲しいと考えます。彼らのもっている“才能・能力・情熱”は無限にあります。