新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第2回

残業しなくても良い仕事のやり方について考える

● 1日10時間以上拘束させることはできない
 男性だけでなく、広告大手や放送局で、若い女性が過労で自殺するという悲しい事件が経て続いて発覚しました。上司からはパワハラばかりで、相談に乗るとかアドバイス的なことはなく責め続けたようです。そのために彼女らは、自分で悩みを抱え行く場を失い結局自らの命を絶ってしまったのです。
 上司がその時に状況を受け止めて、悩みを聞いてあげたり、負荷調整をしてあげたりする対応ができたら、このような結果にならなかったはずです。部下の管理ができない組織だということが、世間に知れわたってしまいました。
 さてドイツではこのような残酷な残業が企業で行われているかといえば、残業ができない法律があります。1日10時間以上の拘束をしてはいけないので、皆を帰宅させます。もし帰さないとその上司が、自らのポケットマネーで罰金を支払うことになっているのです(最高額約150万円)。嘘と思われるかもしれませんが、その責任は会社ではなくその上司にある考え方なのです。ですから実質残業は1時間半程度です。
 ワークショップの時に、早朝から出勤しているメンバーが時間オーバーになるので早く帰らせたいと、工場長や上司から耳打ちをされてこの規制を知ることができました。罰金が会社から支払うようになっていれば、直接の上司に痛みは感じることはありません。でも自分のポケットマネーから罰金を支払うのは、ケチなドイツ人にとっては我慢できるものではありません。
 法律やルールがあると、それをひたすらに守るのもドイツ人です。横断歩道で、赤で渡るドイツ人はいません。大阪は、自転車は横断歩道を赤でも知らん顔で突っ走りますので、張り子のように首を振り向きながら渡らなければなりません。

● 休暇を完全消化してリフレッシュして仕事に集中する
 ドイツは現在どの企業も繁忙期になっています。そのためにワークショップの人を集められない企業もあります。人不足の時には、派遣の人を手配することが一般的です。でも現在はどこも人不足です。だからと言って残業させるかといえば、させることはできません。
 そこで時間口座という少し抜け道を使う手段があります。繁忙期の残業時間をあとで暇な時に休暇にして、穴埋めをするのです。それでも間に合わない場合は、時間が足りないので生産できないとギブアップするのです。この辺が日本と違う感覚でしょう。受注したものは、必ず納期に間に合わせて出荷することが使命のようになっていますが、欧州では仕方ないなあという精神も持ち合わせています。
 また夏季のバカンスシーズンは、当然従業員が不足しているので、発注側も会社のトップもお互いがあまり無理をいいません。なぜだろうと考えてみますと、欧州人は先祖からの狩猟民族であり、獲物がいる時は猟ができますが、いない時には待つしかありません。そのことが暗黙の了解になっているようです。また経営者は、事前に人を集めて大きな問題にならないように対応をきちんとしています。
 先日訪問先で、顔なじみのマイスターが真っ黒になっていたので聞いてみると、キューバに3週間ほどバカンスで行ってきて今日から出勤だという。何もしないで寝てばかりだといっていましたが、料理や酒さらには海岸線の美しさなど楽しかったことを延々と話しをしてくました。
 年間の有給休暇は6週間ほどありますが、全員が100%取得します。取得しないと労働組合から厳しい攻撃にさらされますので、しっかり完全消化されます。9月、10月になると、各職場に翌年度の取得したい休暇の一覧表が貼り出されます。その職場で各人の休暇の平準化を図っているのです。仕事優先の日本ですが、彼らは休暇優先の考えなのです。

● 休暇をしっかり取得するから密度の高い仕事ができる
 当然会社のトップも2~3週間もまとめてバカンスを取ります。トップがこの間に留守をするわけですが、安心してバカンスに出掛けるには自分の業務をしっかりと部下に言い伝えておくことが必須になります。
 自分がいない時に問題が収束しなければ、普段からの部下育成ができていなかったとその上司の責任が問われるのです。場合によっては、降格などもあります。その間に任された部下は、一生懸命に自分より一段上の業務に取組みます。仕事をオープンにしておき、対応が相互でできるしくみを整えているのです。
 このように休暇を確実に取得することで、体も頭も休養をしっかり取ることでメリハリのある仕事ができるようです。日本との生産性の違いは、このメリハリがあり集中力の差だと思います。周囲の人たちと業務の共有化を図り、見える化し負荷の平均化のアクションなど、お互いが協力し合える職場作りから始めてはいかがでしょうか。