虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第50回:目は口ほどにものをいう(その2)

目は心の鏡といわれるように、その人の心が見えます

 目は心の鏡ともいわれます。目を見れば、その人の心もわかるものだというくらい目の表情に映し出されます。筆者がイラストを描くときも、顔のパーツで一番表情を表すものが目であり、次が口となります。鼻は表情にはあまり影響を与えません。目は人の眼(まなこ)といわれるように、目が一番大切な器官ということであり、その人がどんな人物であるかも目に現れるものです。
 海外でセミナーやワークショップで話をする時は、まったく現地の言語が理解できないので、参加者の表情を見て理解したかどうかを、自分自身で確認しています。通訳が訳して話をしている間に、参加者の目を見ていきます。伏し目気味だったり、キョロキョロとしていたり、ランランと輝いているかなどすぐ確認します。理解できなく消化不良気味であれば、さらに追加して補足説明や例え話を入れたり、イラストを描いて説明したりします。
 20年近くドイツに通っていたのに、ドイツ語はペラペラで話もできるのですかとよく聞かれます。自慢にもなりませんが、まったく会話もできませんし聞き取りもできません。単語もせいぜい30個くらいしか頭に残っていません。
 学生の時に3年間ドイツ語の授業があり、苦痛の時代を過ごしました。英語の「the」に相当する冠詞の「das」が、最大16も変化するのです。そして名詞も男性、女性、中性の区分もあり、頭が混乱し目はぐるぐると渦巻状態になったほどです。
 ドイツ語で書かれたレポートを、辞書を見ながら翻訳して文章にしたことがありました。でも2つの単語が辞書になく、多分こういう意味だろうと想像していたら、まったく逆の意味だったことが通訳から指摘されました。「何のために通訳がいるか考えてください!」と大きなお灸をすえられたことがありました。
 それ以来挨拶以外の会話は、極力聞かないように努めてきました。けれども、そうすると逆に、目を観察して表情を読み取る能力が鍛えられたのです。聞こうとしないから見る方に集中できるようです。また通訳が訳している内容をそれは変じゃない?とヘタに指摘すると信頼関係が崩れてしまいますので、一切翻訳している内容を頭の中で翻訳することもしなくなりました。
 参加者の表情を見ていれば、理解しているかはほぼわかります。参加者の8割くらい納得の顔をしていれば次に進みます。ですから演台から話をするのではなく、一番後ろの席まで出向いたりしてフェイス・トゥ・フェイスで語り掛けたり、フリップチャート(模造紙)に絵ときで説明するようにしたりしています。一方向ではなく、双方向で説明をしていくスタイルです。

スマイルマークのように、眼尻は下げ口元は上げましょう

 外部からの情報の入力は、五感といわれるうち視覚の占める割合が83%にもなります。次いで聴覚が11%、臭覚は3.5%、触覚は1.5%、そして味覚が1%という割合になります。視覚からの情報がほとんどだということです。
 メラビアンの法則をお聞きになったことがあるかと思います。視覚から情報が55%、聴覚からの情報は35%、そして言語の情報はわずかに7%です。そして、顔の表情、視線、態度、体形、声の大きさや明るいとか暗いとかのトーン、服装、髪型という外観の割合が93%も占めています。本当に見た目で感じる情報は、9割もなります。
 また人は最初の3秒くらいで、相手の第一印象を決めてしまうようです。これは人類が危険を避けるために、一瞬で状況を判断する訓練をしてきた賜物です。しかも一度インプットされた情報はなかなか消えないので、悪い印象だとそれを覆すにはかなり労力が必要になります。
 人の見た目は、思っている以上に重要です。ですから、筆者は顔の表情を明るく保ち、キビキビとした態度で接し、大きな声で元気良いあいさつをいつも心掛けています。こうした心掛けは、周りの人も幸せにします。朝、鏡に向かって「おはよう」といいながら笑顔の練習を欠かしません。人間として生まれてきたのですから、周りの人を幸せになるように顔の表情はスマイルマークのように、眼尻は下げ口元は上げて笑顔を振りまきましょう。
 いつも見ている現場を第三者の眼で見ることにより、気づかなかったことが見えるようになるヒントを提供してきましたが、いかがでしたでしょうか。



新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼シリーズ連載のご紹介

 著者の松田龍太郎は、欧州への渡航年数と回数、さらに訪問企業の数(12カ国、60社以上、200工場以上)は、極めてまれな体験をしているコンサルタントです。その分失敗も多かったです(汗)。18年間で180回における移動距離は、地球を120回以上回ったことに相当するほどです。通訳のネットワークで確認しましたが、著者のような体験をしていた日本人のコンサルタントは数人以下と聞いています。
 前回まで、虫の眼の記事では身の回りや身近な事例をもとに、50回の連載をご紹介させていただきました。次回からのリニューアル編は、日本と欧州の対岸からそれぞれを見た考察(うんちく、ユーモアなど)を交えて、皆様の視点を変えていただく“きっかけ”になれば幸いと考えて、新・虫の眼の24回シリーズをご紹介したいと思います。乞うご期待ください!